そう言って、布を取る事を制し手を引かれた。
「やっと来たか、元譲」
目が見えなくても聞き間違えようがない声。
腹に響くような低い覇者の声。
紛れもない曹孟徳が目の前にいる。
「孟徳!この戯れはなんだ!?つまらん用なら俺は怒るぞ!」
ずっと苛々していたので、開口一番文句を付ける俺に孟徳は笑っているようだった。
「もうこれは取ってもいいのかっ?」
返事が帰ってくる前に布の結び目を解くと、目の前は厩だった。
何故こんなとこにわざわざ目隠しまでさせて車で来させる必要がある?
怪訝に思い、眉を寄せると孟徳が合図をした。
応えるように厩の中から引かれて来たのは、一頭の黒毛の馬…
孟徳の愛馬にも勝るとも劣らない。美しく腰周りの筋肉が張った立派な馬だった。
戦場を駆ける姿はさぞ目を惹くことだろう…
俺は一目で、この馬に心を奪われた。
「飛焔だ、元譲」
「ほう…?飛焔か…見事な馬体に劣らぬ勇ましい名だな」
見惚れるように馬から目を離せない俺に、孟徳は満足そうに頷いた。
「元譲、お主の馬だ」
「は?」
「戦場にあっては焔の様に激しいお主と、飛ぶが如く駆けるこの馬…まさに出会う為に生
まれたようだのぅ」
だから飛焔と名付けたと孟徳は言う。
「元譲、この馬に乗り。これからも我が覇道を支え、切り開く道を突き進んでくれるか?」
あぁ…この男はなんて馬鹿なんだろう…
世に奸雄などと評されていても、こんな簡単なことを改めて問うなんて。
しかし、その言葉が嬉しくないなどということは無く…
「今更何を言う、聞かなくともわかっているだろう?俺の命はお前の天下の為にある」
そう言って笑ってやったら、無邪気に嬉しそうな顔をしやがる。
孟徳、俺はいつだってお前の為なら命など投げ出す覚悟はできているんだぞ?
本当は本能でわかっているんだろう?
「孟徳、この馬に乗って久しぶりに二人で遠乗りにでもいかないか?」
鬣を撫でながら俺は笑う。
お前がなにより大切なのだと、照れくさくて口に出せない分、思いが伝わるように…
2005.09.22
なんとなく突発的に思いついたSS
ほんと短いです。
きちんと読み直してないうえ、尻切れな小説・・・(ならアプるなよ;)