-光-






半分だけの世界…それがどれ程に狭いか、お前にはわからんだろうな








孟徳と劉備が裏で手を組んで、呂布を討ち取ろうとした事が始まり
密書を運んでいた兵が捕まり、運悪くその計画が当の呂布にバレた。
当然怒った呂布が劉備のいる荊州に攻め入る。
知らせを受け劉備の援軍としての先鋒隊を引き受けた俺は
乱戦の最中、曹性の放った矢を左目に受けた…



それ以来、半分の世界で生きている



無くなった左を見ようとすれば、己の鼻が見えるだけ…

自分の油断が招いた結果だった、そう自嘲してみても、虚しいだけだった。
死角を意識する度、自虐的な気分になる。
そして、そんな気分になる時は決まって鏡を床に叩きつけた。
歪んだ銅鏡が己の顔を余計に醜く映し、狂ったように笑った…



武人にとって死角が増える事の不利さを、嫌と言うほどわかっていた。
通常でも、戦いの最中死角から突如襲い来る槍や剣などが多々あるのだ。
武人としての価値という物があるのならば、俺は確実に半分以下になったと言える。
孟徳の覇業の為ならば、命さえも惜しくはないと思っているが
それよりも、役に立てず犬死することが怖かったのだ…

我武者羅に鍛錬を繰り返した

傷がまだ完治していないと必死に止める軍医を突き飛ばし
無理矢理兵卒に相手をさせ、剣を握った。

目を無くす前よりも悲壮な程に打ち込む俺に、妙才達でさえ声がかけられなかったようだ。
こんなことをしても、元には戻れん
それくらいわかっていた。
だが、孟徳のお荷物になるくらいなら、体が悲鳴をあげようが剣を振るしかないと
そう思い込んでいた。



蝉の声が煩い…

剣を握る手が汗で滑るのが、鬱陶しい。
鍛錬場に降り注ぐ日光が、痛いくらいに体をジリジリと焼く
意識が遠のくのがわかった、それでも剣を振るのを止めようとは思わなかった。


孟徳…俺は今でもお前に必要な人間か…?



ただそれだけしか考えていなかった…

そして、真っ暗な闇が訪れるのを歓喜にも似た気持ちで受け止めた。





「……………げ…………元………元譲…」

遠くで呼ぶ声に、ゆっくりと目を開く。
どことなく見覚えのある天井に、ゆっくりと深呼吸をした。
どうやら、無茶な鍛錬をして倒れた俺は、宮殿の中に執務で宿泊する文官らの為用意されて
いる部屋に寝かされたらしい…

「元譲、目が覚めたか」

声のした方へ顔を向けると、孟徳が立っていた。

「…孟徳…」
「……元譲、お主死ぬ気か?」

そこには無表情ながら怒りを瞳に宿した曹孟徳があった。

「……死ぬ気などない…第一、これくらいで死ぬはずがないだろ…」

後ろめたさも手伝って、まっすぐに孟徳の顔が見れない。
俺は、額に乗せられた濡れた布を目の上にずらした。

「元譲よ、何をしようとお主を信じておる。だが、儂が生きているうちにお主が壊れることなど
許さん」

そう言ったかと思うと、孟徳はいきなり俺の胸倉を掴み、引き起こした。
熱中症の頭が酷く痛み、呻き声をあげる俺を見て、軍医が慌てて孟徳を宥めようとする。
しかし、孟徳は一睨みで軍医を下がらせると、苦しい程に胸元を締め上げてきた。

「…ぐ…苦しい…孟徳っ」

窒息しそうに息が詰まり、顔を紅潮させながら孟徳の腕を掴む。

「苦しいかっ!お主がいなくなったら儂は今以上の苦しみを味わうのじゃっ!」

そう怒鳴り、乱暴に寝台へと俺の体を放した。

「ゴホッ‥ゴホッ……も‥徳…」

喉を押さえ咳き込みながら、俺は孟徳の顔を覗いた。
怒りと悲しみと色々なものがごちゃ混ぜになった様な顔をしている孟徳に、不謹慎と思いつ
つも俺は笑った。

「孟徳…ゲホッ…なんて‥顔している…っ…」
「煩いっ!全てお主のせいじゃ!」

苦虫でも噛み潰したかのように顔を歪ませる孟徳が可笑しくて、俺は笑いながらそっと手を
伸ばした。

その手を孟徳はしっかりと強く握り締めてくれる…



「俺は死なん…孟徳。そんな顔されちゃ、死ぬに死ねん」
「当たり前じゃ、お主にはこれから嫌と言うほど、儂の覇道を切り開く戦いが待っているのだ
からな」



…まだ俺が必要だと言ってくれるのか…



「お前の天下を見るまでは…死ねんよ…」
「わかっておるじゃないか、元譲!ならばいつまでもメソメソ泣いとらんでシャキッとせいっ!

「誰が泣いてるかっ!!」

知らずいつもの調子になっていた。
現金だと思いつつ、孟徳には敵わんと諦める。

「ククッ、世話のやける半身殿だ」

肩を竦ませ笑う孟徳の後ろの窓から、日の光が差し込む…
俺は眩しさに目を細めた。





あぁ…俺は光を失ってなどいないのだ…孟徳こそが俺の光…



失うことなど有り得ない、俺の












なんじゃこりゃぁぁぁぁっ!!
しっばらく放置してあった書き掛けを仕上げた・・・
おかしいなぁ・・・書き始めた当初はもっと感動的な内容が浮かんでいたはず・・・
すっかり忘れちったんべよ!
所詮こんなもん(笑)
つか、添花暗い話好きだなぁ・・・
根は鬱陶しい程明るいのにねっ
そうそう、最近のお気に入りの言葉
「死ねですぅーーーー」
ケ○ロ軍曹のタママのあの言い方がツボってしまった(笑)

2005.09.06