袁紹は元譲のいない月日を数える虚しさに疲れていた。
しかしありがたい事に董卓が帝を擁し反乱を起こしてからはそれさえ考える余裕がなくなった。
帝の臣下として、この暴挙をどうにかしなくてはと思っていた。
連合を組まなくてはならなかった理由は董卓の軍が精強だっただけではない。
董卓は異様なほどに周りを固めている。だが董卓軍だけならまだなんとかなりそうなのだ。
問題の人物がいた。
呂布奉先だ。
董卓が養子にした男で凄まじいまでの武力なのだ。
それは本当に困った。
呂布の存在は武力のみならず、一般兵の士気への影響も多大だ。
したがって連合軍を作るという決定になった。
「盟主は袁紹殿にお願いしたい」
やはりここでも名門一族は優遇された。
元譲と約束した。
俺が凄い奴になったら武将として仕えてくれると。
その為なら袁紹は何もかも。自分が嫌っている名門と言うことさえ利用してやろうじゃないかと思った。
虎牢関での決戦の時が迫った。
各々が陣営を張った、袁紹の軍は名前の有名度もあって三十万を越えていた。
醜いと思いながらも優越感があった。
元譲にふさわしいのは自分だと思った。
「殿、軍議の為諸侯に召集を通達して参りました」
部下の一人が報告に来た。
「うむ」
そう言って袁紹は副官を伴って歩きだした。
軍議には副官と二人で参加せよと言ってある。
「本初っ」
突然自分を呼ぶ声がした。
「あっ…御無礼致しました、袁紹殿」
焦りながら言い直す男を見た。
初めて見る顔だった。ただ一つ…その笑顔を除いては。
「ま…まさか…元譲か!?」
目を疑ったが、どう見てもその目の前の笑顔は懐かしく、死ぬ程恋い焦がれたモノだった。
「はい」
名前を呼ぶと嬉しそうに微笑んだ。
「どうしてここに?」
袁紹は連合軍を立ち上げるに至ったとき元譲を必死に探させた。
「孟と…いやっ曹操殿に参加を促されましたので…」
また曹操だ…
袁紹は元譲に気付かれないようそっと歯噛みした。
あれ程探させたのに見つけられなかった
何もかもが袁紹の望みとは遠いところに向かっている様な気がした。
「夏侯惇、来い」
曹操が袁紹と元譲を冷めた目つきで見ている。
「夏侯惇っ!!」
「わかった、孟徳…まったくいつも慌ただしい奴だ」
苦笑しながら元譲は上官に対する口調とはほど遠い砕けた感じでぼやいた。
「じゃぁ袁紹殿また」
そう言って微笑むと曹操に向かい走っていく。
今はまだいい。
曹操など所詮腐れモノの家系だ…元譲はいずれ自分の元に来る。
そう自分に言い聞かせ嫉妬に狂いそうな心を隠し袁紹は軍議へと向かった。
軍議の間曹操を通り越し後ろに控える元譲を見ていた。
元譲の全てを自分のモノにしなくては気が済まない。
子供の独占欲みたいだと自分でも思い自嘲する。
-傍ら-
あれから何年たったのだろう
どうしたらよいかと模索しているうちに曹操が董卓暗殺に失敗した。
しかしそれで諦めはせず檄文で諸侯等に呼びかけ、とうとう反董卓連合ができた。
飛んでくる弓矢を手で掴むとの噂まである。
董卓の側にはその呂布が旗本の様にいつもいた。
董卓は自分の身の安全の為呂布を片時も離さないらしい
呂布の率いる騎馬隊は不気味な程強い。
執金吾だった前父丁原の下にいた時に洛陽の町を取り締まっていたが、その時の騎馬隊の巡回ぶりは有名だった。
まだ最近の事なので、兵達は呂布という名前を聞いただけでその時の事をまざまざと思い出し
震え上がってしまうのだ。
紹は複雑だった。
名門であることに不快感を覚える、しかし出世を考えるならばそれはありがたくもある。
刺史・太
守らもそれぞれ万を越える軍だった。それに対して曹操は五千。
まぁ副官には発言権は無くただ側に仕えているだけなのだが
誰だ?字で突然呼び捨てにされ怪訝な顔を向ける。
六尺三寸(189cm)くらいありそうな大きな男で体つきも精悍さそのもの。
それに反して
艶やかな黒髪が無骨さの中に程良い甘さを添えていた。
自分の元に呼び寄せる為だ。
しかし、どんなに探させても元譲は見つからなかった。
しかし曹操は居場所を知っていていとも簡単に元譲を
側に仕えさせた。
しかも己の副官として
二人の親密さが伺える。それが余計袁紹には面白くない。
小柄な曹操が元譲を見上げながら睨みつけ何か言っている、それを笑いながらかわす。
な
ぜか二人は離れがたいものに見えた。隣にいる事が当然のうような態度。
あの頃の守ってやりたいと思わせるか弱さは微塵も感じない。
ギョロリとしていた大きな目も大人の男らしく鋭いモノになっている。
しかし自分よりも背が伸び今では立派
に髭も生えているのに、
元譲を組み敷きたいという欲望が変わらず確かにあった。
わかっている。わかっているけどこの思いは止められないのだと袁紹は思った。
続く
2004.09.12
はい、第七話です
夏侯惇の一人旅も書きたかったんですけど勉強不足の為断念。
展開早いと思いつつもう再会
まぁそこまで書くとやたら長い連載になりそうなので・・・
つうかなんで袁紹なんかこんな長く書いてんだろ・・・(袁紹ファンの方すみません)