自軍が敗れ、殿と共にこの身も終わらせようと思っていた張遼に曹操は言った。


「まだ見ぬ最強の武を求めるならば、我が軍に身を置くがいい…曹孟徳はこれから先も戦い 続けるぞ!」


まだ死ねぬ、『最強の武』という言葉に張遼は生きることを決意した、必ず最強の武を掴 むと。
自らの衣で張遼の体を包みながら、くったくなく笑う奸雄に張遼は生涯の忠誠を誓った。







『可愛い人』







降将である張遼には面倒役が付けられることになった、少し前まで敵軍だった慣れぬ地に て
張遼に不都合があってはならぬとの曹操の気遣いだ。

張遼は誰がくるか知らなかったが、待ち合わせにと指定された室に向かった。

戸を開くと中にはまだ誰も来ておらず、礼節を重んじる性格な為、刻限よりも早く足を運 んだのだから
当然の事と、たいして気にもせず中へと足を踏み入れた。椅子に腰を下ろし 黙祷し待つ。

外からは練兵の掛け声が微かに聞こえる程度で静かだった。



心地よい…



そう感じ苦笑するといきなり室外に鈍い音が響いた。

心地いい空気を見事に粉砕したゴッ、という音の後に呻き声が聞こえる。

張遼は僅かに眉をしかめると、その音に向かって歩きだした。


「ぁぃたたた…」


回廊の端でうずくまって頭を押さえている男に近づく


「如何致した…?」


張遼が声をかけると、目の前の男は驚いたように顔を上げる。

背を向けている為顔は見えなかったが、逞しい体つきとその雰囲気からこの軍の武将であ ることは確かだ。


「いや…大事ない…」


どうやら柱に頭をぶつけた様だ…武人としてそれはどうかと首を捻る。

後から見える耳が朱に染まっている事から、恥ずかしくてたまらないといったところだろ う。

ふんっ、と気合いをいれ仕切り直すようにと、その男は立ち上がり張遼の方へと振り返っ た。


「夏侯惇…」


顔を見た瞬間張遼は思わず名を呟く、呟いてしまってから無礼な態度に慌て頭を下げる。


「ん?俺を知ってるのか?」


そんな事を言いキョトンとするが、知らないはずがないだろう、ついこの間まで戦をして いたのだから。

そんな暢気な姿に面食らうも、張遼は死んだ高順の話を思い出した。

劉備を攻めたおり曹操軍の援軍として駆けつけた夏侯惇殿
曹性殿に目を射抜かれても怯 まず、それどころか自身の血にまみれながらも、その曹性殿を追いかけ突き殺したと…

それを話してくれた時の高順殿の蒼白な顔が今でもありありと浮かぶ。
張遼もそれを聞いた時には、あまりの剛胆さに肝を冷やした。



その猛将と目の前のどこか抜けている感の否めない男が同一人物とはどうしても思えな かった。

しかし、左目の辺りを覆う包帯がなにより夏侯惇であることを表している。


「おい、どうしたぼんやりして…どうかしたのか?お前…えーと…?」
「はっ…これは失礼した、私は張文遠と申します」


突然声をかけられ慌てて名乗ると夏侯惇はパァッと顔を破顔させた。


「お前が張遼かっ、噂は聞いてるぞ。お前凄いんだってな」


まるで子供のように無邪気に話しかけてくる。


「俺がお前の面倒見役だ」


そう言って僅かに胸を張る。


「夏侯惇将軍程のお方が私などの面倒見役など…」


曹操の片腕とまで言われる将軍が、降将の面倒など…


張遼はどう言っていいかわからず語尾を濁した。


「別に俺はそんなたいしたもんじゃないぞ?…それにな…これがまだ完全じゃないのに鍛 錬しようとしたのがバレてな
…まぁ…お前の面倒役と言いつつ、お前に俺を見張らせるっ て腹もあるんだ孟徳は」


左目を指しながらそう言って唇を尖らせた。

つまり一つで両方の成果があると言うことか…流石は奸雄とまで言われる方だ…


「将軍は…その、まだ傷の具合が宜しくないのでは…?」


遠慮がちに聞いてくる張遼に夏侯惇は柔らかく笑う。


「まぁ、まだ痛みは取れんが、寝てなどいる場合ではないからな。それに寝ていると退屈 だし」


おそらく後の方が本音なのだろう。


「だいたい孟徳は心配しすぎなのだっ、これしきの傷、武人としてはなんてことない」


ブツブツと曹操への愚痴を言い出す夏侯惇に、張遼は笑いが堪えられなかった。


「………なんだ…お前、笑えるんじゃねぇか」


そう言って驚いたような顔をしている夏侯惇に張遼は怪訝な顔をする。


「いやな、孟徳が張遼は表情無く、眉一つ動かさず人を斬ると言っていたのでな…」


失敗したとばかりに頬をかきながらもごもごと言われ、張遼は頭が痛くなった。

あの方は、人を面白おかしく吹聴なさってるのか。


「私だって人間なんですが…」


半眼で言う張遼に夏侯惇は吹き出す。


「すまんすまんっ、孟徳の冗談好きはわかっていたんだが、つい騙された… んっ、では面 倒見役として
まずは我が軍の詳細を聞かせよう」


言って半端に戸の開け放たれたままの室に歩き出す。
距離感がいまいち掴めないようで、夏侯惇は戸に向かって前進していた。
気づいた張遼がさり気なく後から手を伸ばしぶつからないように戸を開いてやる。


「ぅ………すまん」


気まずそうに振り返って礼を言う夏侯惇殿の顔は真っ赤だった…


「いえ、お気になさらず。面倒見役殿」


そい言って笑ってやれば夏侯惇殿は照れくさそうにますます顔を赤くした。



なんと可愛らしい方だ。
平時と戦時との差がとても魅力的で 構わずにはいられない…
貴方みたいな方がいるのなら、私も楽しく生きられそうです。


張遼はそう思い、久しぶりに微笑んだ。








半端くせぇぇぇぇぇっ!!!
副管してるサイトの日記が何日か書いてなかったのでつ
いや・・楼閣はほとほと呆れる程書いてなかったんですけどね(笑)
管理人の桃ちんに怒られないように、何かで埋めると言う姑息な手段発動(ビクビク)
日記に小説を載せることで解決しちゃいましたvvvアハ
久しぶりの遼惇です。張遼が夏侯惇に惚れるきっかけっていうか・・・正直ぬるくて笑止
鬼畜チックなエロ大好物な添にしては珍しくほのぼのでつ。
まぁ、たまにはこんなのもいいかなぁ………誰か同意してくだされ(汗)

2005.07.19

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