-恋始め-







韓浩が曹 孟徳を殿と仰ぐようになったのは、袁術の命により騎都尉をしていた韓浩の噂を夏侯惇が聞きつけ、
是非とも我が軍にと赴いたことが始まりだった。


その頃、韓浩の名声は割と広く伝わっていたため、是非我が元へと訪れる者も少なくなかった。

口の達者な者を寄越し、気恥ずかしさに痒くなる様な賞賛の言葉を並べたてる。
どの口も同じ音ばかり発していた。
そんなことが続くと、韓浩自身我が身を欲し、遠路はるばる訪れる者達にまったく関心を持てなくなっていた。


別に自分を騎都尉に抜擢してくれた袁術に忠誠心を持っているわけではない。ただたまたまやるべき事をし、
己の正義に従ったら袁術の目にとまっただけ。
その程度だった。


一時は袁術にこの国を正して貰えればと期待したこともあったが、側で見れば見る程に袁術の腹がわかり、そ
の思いは憤怒と入れ違いに消えていった。


自分の不甲斐なさに嘆く気持ちも消えかけた頃、一人の男の訪問を受けた。

今や知らぬ者など中華全土どこを探してもいないであろう、許昌を拠点に凄まじい勢いで勢力を拡大している
曹操 孟徳の使者だった。

曹操と言えば、文武に長け、こよなく詩才を愛す男…さぞ甘美な音を発する口を持った使者を使わせたのだろ
うと思い、いくら現在の我が身の在り方を情けなく思おうと、ねい言に惑わされることなどあってはならない
と気を引き締めた。



久しぶりに緊張する…



使者を待たせた室の戸を深呼吸をして開いた。

室を覗き、そして韓浩は眉をしかめる。

いるはずの人間が見当たらないのだ。



確か曹操の使者の名は夏侯惇といったはず…



韓浩は静かに口を開いた。

「夏侯惇殿…夏侯惇殿……いらっしゃらないのですか?」

その声に気づき、驚いたかのように室の中からガタンと音がした、韓浩は音を辿り視線を巡らす。
すると、室の片隅に置いてあった卓の下から大柄な男が体を縮ませ出てくるのが見えた。



いったいこの方は…



狼狽しますます眉間に皺を寄せる韓浩に、曹 孟徳の使者である夏侯惇は卓の下から出てくると慌てたように背
を正した。

「貴公が韓浩殿か…俺は夏侯惇、字を元譲という…今日は忙しいところ時間を割いて貰いありがたく存じる」

そう言って途端無邪気な笑みを見せた。
そして、その大柄な武人には似合わぬ付属品。韓浩は夏侯惇の胸から目が離せなかった。

「…あぁ、こいつか…その……ここに来る途中拾ってな…弱っている様だったのでつい連れてきてしまったの
だ」

韓浩の視線に気づいた夏侯惇が、照れくさそうに後頭部に手をやり髪をガリガリと掻きだす。
その反対の腕にはやせ細った黒い子犬…
二つの命のちぐはぐさに韓浩はたまらず噴き出した。

「くく…すみません………どうぞこちらへ…」

機嫌を損ねたと言いたげに口をへの字に歪める夏侯惇に座をすすめ、向かい側に自分も腰を下ろした。
夏侯惇は韓浩の正面に座ると、足の上に子犬を座らせる。
その姿が可愛らしくて、韓浩はまた笑いそうになったのを必死で堪える。
ちょこんと座る子犬の頭を撫でながら真っ直ぐに見つめると徐に口を開いた。

「韓浩殿…俺は回りくどい事は苦手だ…貴公の人となりは噂でしか聞いておらん…貴公は今のこの国をどう考え
ておられる?」

油断していたところへ、いきなりの質問に韓浩は思わず息をのんだ。
今までこんなにストレートに聞いてくる者はいなかったのだ。
気を落ち着かせる為に深く息を吸うと、一度目を瞑りゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「…私は…漢王朝はもう修正のしようのない所まで来てしまっていると思っています…帝をたて盛り立てていく
と口では語り。その実、裏では己が取って代わることを考えている…この国は膿んでしまった…最早漢に威厳も
なにもありはしない…終わりが来ているのだと思います」

漢王朝に対する謀反とも取れる言葉を韓浩は夏侯惇から目を逸らすことなく語った。
それに夏侯惇は小さく頷く。

「韓浩殿、我が殿も同じ事を考えている…この国は生まれ変わる時期に来ているのだ…そして曹 孟徳にはそれが
可能だ。どうだろうか…我が殿の覇道に力を貸してもらいたい」

深く腰を折り頭を下げる夏侯惇に韓浩は慌ててそれを制した。
夏侯惇と言えば、曹操の従弟で彼の一番の寵愛の臣と聞く。



そんな彼が私などにここまで頭を下げるとは…



「夏侯惇殿…頭を上げて下さい…私などに頭を下げるものではありません」
「いや、貴公が是非とも我が軍に欲しいのだ…俺は無骨なだけの武人…これくらいの事しかできん。しかし、孟徳
の為に貴公が手に入るのならば、俺の頭くらいいくらでも下げよう」

そう言って頭を上げると、子犬を抱え直してまた無邪気な顔で笑った。



どうしたらそこまで自分を捨てられるのだろう…

曹操という人物はそれほどまでの男なのだろうか…



韓浩は是非とも聞いてみたくなった。

「夏侯惇殿、貴方にとって曹公とはどのような御方なのですか?」

韓浩が問うと、夏侯惇はきょとんと両目を丸くしてみせた。
その表情が幼く見えて韓浩は微笑んだ。

「俺にとっての孟徳……俺にとっては…昔と変わらず悪戯好きな従兄といったところか…しかし、孟徳には民に人
としての人生を全うできる世界を作るだけの力と頭脳がある…だから俺は孟徳の作る天下が見たいのだ」

目を細めて幸せそうに笑う姿に韓浩の心臓がドクリと跳ねる。



その瞬間に悟った。自分は落ちてしまったと。

その笑顔をもう一度見たい。

近くで見ていたい。



そして気がつけば口を開いていた。

「私の命でよろしければ、存分にお使いください」



貴方の傍にいられるのなら…私の命存分に



芽生えた思いを胸の中で呟き、韓浩は微笑んだ。








なんだこりゃ;
もう、内容が説明くさいーーーっ!!
痛い系小説を書くつもりが、出会いから書いてしまったので、そこまで韓浩の想いを育てるには長くなりすぎるとか思って…
まぁ、今回はいいか…とか思って書いてたら意味不明な短い小説になったorz
こんなんでいいのかっ!?
韓浩がどんな思想を持っていたとか知らんからなぁ。
ソソ様に従ったって事は、劉備みたいに漢、漢言いまくっていたわけじゃないだろうって 勝手な解釈であります(笑)
まぁ、ダメダメな管理人のやおいサイトなんで、いろいろなとこは目を瞑って下さいorz
つか、タイトルセンスないのどうにかしてくれ…
添花、結構韓浩好きです!

2005.11.12