-境界-





境界線は歪んで解け合い意味を成さなくなり

そして消え失せた。






『も‥徳っ…ぁ…ぅんっ』

耳について離れない嬌声が頭の中でグルグル回っていた。

幾度となくソレを振り払うように首を振るが、その努力も一向に意味を成さない。



天幕での嬌声と

倉庫での嬌声



どちらがより甘く鳴いていたのだろうか…

後ろの孔に男を咥え込み、閉じられぬ程喘ぐ口元からは涎が伝い流れ埃の積もった床に染みを作っていた。

突き上げられる度に中心は鈴口から透明な先走りを溢れさせ、髪を振り乱し女の様によがる様は妖艶としか言い表せない程に艶やかで。

あれからも夢では頻繁に将軍を抱いていた。
夢の中でぐらい自分に都合よくいけばいいものを、それさえも叶わない。
抵抗を表す四肢を無理矢理に押さえつけ、嫌がり反らす顔に唇を這わせた。
力を抜こうとしない後孔に力ずくで自身をねじ込み、鮮血が敷布を紅く染めるのにも興奮を覚えた、己の下で苦痛に呻く将軍を見下ろし、薄く笑いながら穿つ。

己の手で殺すと誓った、将軍を陵辱した男と、毎夜の様に夢の中で将軍を蹂躙する己……より将軍を汚しているのはどちらなのだろうか。

自分の浅ましさに嘲笑が漏れる。

「元嗣?」

いつの間に側に来ていたのか、思考に耽り気づかなかった為将軍の声に驚きビクリと飛び上がった。

「将軍っ…」

驚き慌てる様を見て夏侯将軍は目を丸くしていた。戦時や威厳を保たねばならぬ時には鋭い光を湛える右目が、普段は口下手な将軍の言葉を代弁する様に表情豊かに動く。
それはあくまで無意識であって、隠し事が出来ない不器用さも表しているのだが、そこが好ましく誰からも愛されていた。

将軍を嫌う人物などいないだろう…殿が何時だったか、世で敵味方関係なく一番慕われている武将であろう‥とまで褒め称えた。
その言葉に頬を薄く色づかせ、照れくささを隠す為不機嫌な顔を作る様がまた好ましく、その場にいた一同が皆納得したのを覚えている。

「元嗣、おいっ、元嗣?」

顔を見つめたままぼぅっとしていると、目の前で将軍は意識を自分に向けさせようと手を振っていた。

「っ、すみません!何か用ですか?」
「おいおい…どうした、元嗣‥寝不足か?具合でも悪いのか?」

漸く尋ねると、将軍は眉を下げ、ぼぅっとしていた私を心配そうに見つめてくる。
間近で真っ直ぐに向けられた瞳を覗き込む、玉を思わせる様な茶色に光る綺麗な瞳、そこには確かに自分の顔が映っていた。

しかし、この方が本当にこの瞳に映しているのは唯一人。

曹 孟徳

そこまで考えて、また二人の深い繋がりを意識する、誰も入り込めはしない二人の絆。
主従であり従兄弟であり幼なじみであり…愛人である。

欲しがらぬと決めたはずの想いが揺れるのがわかった。

「何でもありませぬ、昨夜書物を読み耽り少々寝不足なだけでして…申し訳なく…」

言って頭を下げると、その頭を軽く小突かれ顔を見る。

「お前の事だ、また室に隠り書の虫になっていたんだろうと思ってはいたが…そろそろ練兵が始まるぞ」

いたづらをしてはにかむ子供の様な顔で笑われる。
いくつになっても出逢った頃の無邪気さを無くさない、子供の様な処が色事とは対局にある存在かの如く感じ、倉庫での妖艶な姿は夢だったのではないかとさえ思わせる。

その一方で無邪気さが快感にとろける様をまざまざと見せつけられた事実に鼓動が早まった。

いけないと思いながらも倉庫でのあの乱れた顔を重ね合わせ、その顔を己が引き出したいと考える。欲しがる事など許されはしないのだ。

「さて、そろそろ兵も集まっているだろう…行くぞ」

そう言って伸びをすると、背を向け練兵場へと歩き出す。

その背の後を追うように、練兵場へと向かう道を将軍の背を見つめながら歩く。
左手に並ぶ建物と建物の隙間…
日中であるにもかかわらず、日常生活とは隔離されたかの如く薄暗い口をパックリと開けていた。





将軍の腕を掴み、強引に隙間に連れ込だ。
突然の行動に意図が分からないのだろう、首を傾げて見られる。そんな顔をされれば余計に煽られ、理性が擦り切れるのがわかった。

「元嗣?どうし…ぐっ…」

壁に体を押しつけ、問う形に開いた口を貪る。信じられんとばかりに見開いた瞳と目が合った。
その瞳が僅かに濡れるのを認め、上顎に舌を這わすと抵抗しようと暴れだす。
口内の敏感な場所を舌で刺激すれば、抱き竦めた腕の中で将軍の体が跳ねた。

「ふっ…ん…やめっ……んぅっ…」

逃げようと横を向いた事で露わになった首筋に唇を落とし、きつく吸い上げると小さな悲鳴があがる。
将軍の泣き所を見つけた興奮に笑みが浮かぶのを止められなかった。

「やめろっ!元嗣っ……っ…やめ…ひっ」

股間を膝で撫で上げれば、言葉を裏切り素直な体は忽ち反応を見せた。服の上からでも判る昂り。

「将軍、勃っておりますよ」

耳朶にねっとりと舌を這わせながら囁きかけると、羞恥からなのか快楽からなのか、将軍は体を震わせた。
そのまま下だけを解放して外気に触れた自身を緩くさする。切なげに先端から蜜を溢れさせ硬度が増し、将軍の腰が揺れだし、口が笑みを形作る。





堕ちてしまえ…



私の処まで堕ちてくればいいのだ…





「元嗣?元嗣!…またボーっとしているのか?」

突如諫めされた声にハッと顔をあげれば、いつの間に着いていたのか、練兵場にいた…

今、自分は何をしていた…?

将軍を、確認するようにじっと見つめた。

白昼夢…?

あんなにも生々しく、将軍の淫らな姿を見たというのに。

「元嗣…お前今日は帰れ、そんなに調子が悪いのでは練兵中に怪我をしかねん」
「しかしっ」
「ふぅ…、そんなんで練兵をされたのでは兵の士気が上がらん」

そう言ってはいるが、自分を心配しての事だと伺える。

「…申し訳ありません…」

頭を下げ謝罪すると、言葉に従い、その日は練兵を将軍にお任せしその場を去った。











頭が混乱する。

自覚はなかった。
いつの間に空想に浸っていたのか…

記憶の中の姿なのか、自分が生んだ妄想なのか

自分は疲れているのだろうか



意識したことは無かったが、戦に執務に練兵。考えてみれば碌に休む間もなく駆け回っていた。
間抜けな話ではあるが、こうなってみて自分は疲れているのだと自覚する。

そう、疲れているからあのような夢想をしたりするのだ。

今は乱世だという事もあって、いつ戦になるかも判らぬ日々に神経すら擦り減らしていたのだ。

そうでなくては、将軍を自ずから汚すなどと言うことが許されるわけが無い。

自分の寝台に体を預け、きつく目を閉じた。

今眠ったら、また将軍を犯す夢を見るのだろう。

わかってはいたが、自覚した疲労は体に睡魔を呼び起こし、抗いがたいドロのような感覚に意識は濁る。

「眠れば、少しでも眠れば…また元通りになるはず」

言い聞かせるように呟き、眠りの淵に沈んだ…







「んぁっ…やめろっ……元‥嗣…」

将軍の体を寝台に縫いつけ、覆いかぶさる。
悔しさに歪ませる顔を見て、口の端が笑みの形に上がっていく。



またこの夢だ…

汚したい…汚してはいけない…

浅い眠りは中途半端に意識を保っていた。
それが余計に残酷で、心が悲鳴を上げる。
やめろ!と夢の中の自分自身に叫んだ。しかし、その叫びも空しく将軍の服を引き裂き、鍛えられた筋肉に覆われた胸部に舌を這わせ始める。
日に焼けた褐色の肌に慎まし気に色づく突起に歯を立てると、将軍は耐え切れず背を反らし嬌声を上げて快楽に鳴いた。



やめろ…やめるんだ!



やめる?何を?お前はこうしたかったのだろう?



違う!



そんなはずはない!



労わりもしない動きで将軍を突き上げる。
悔しさに噛み締めた唇から滴る血が、慣らしもせず無理矢理に挿入された苦痛によって蒼白になった顔に朱を添え、それが一段と艶めかしかった。



違わない、コレがお前の望みだ



「違うっ!!」



自分の叫びに飛び起きると、必死の形相で寝台を振り返る。





そして…

















「……う…ぁ………か‥侯将‥軍……?」





己の寝台には、秘部から漏れる血と白濁を脚に纏わりつかせた姿が力なく横たわる…



破かれた服が散乱した部屋…



これはまだ夢の続きなのか…?



それとも私の妄想…?



ならば……………………いつ目が覚める……?



横たわる将軍の乱れた髪を手で払い顔を見つめた。



この手に伝わる温もりも、きっと夢。



夢ならば…このまま…







きっと私は壊れている。







愛があまりに深すぎると、人は壊れていくと…



それを私に教えたのは貴方だ…



だから



この愛に殺されても、それは貴方の自業自得…



ねぇ



そうでしょう?将軍…











意識の無い将軍の体に覆いかぶさり、喉の奥で笑いながら、微かに上下する首筋に舌を這わせる。





そして私は狂っていった…







end





うがうが…書いた本人意味不明な文だなァとガクリ
< 心理的なモノは難しいでつ。そんな複雑な脳みそしてないくせに、ちょっと頑張ろうと思い敗走。
補足しときますと…まァ、現実と夢と空想の世界が絡み合って、本人にも今現在見ているものがなんなのか
わからなくなってしまうほど壊れちゃったってとこ(オイ)
んで、最後はほんとに犯しちゃったらしいですよ(そんな人事みたいに…/笑)

2006.1.26