-路途-





薄暗い道を家に向かい歩いていると、前の方に誰かが立っているのが見えた。

遠目から見ても、そいつが剣を持っているのがわかる。

賊か…?

ここ洛陽も最近ではすっかり物騒になった。

金品を目的に人が殺されるなど日常的になりつつある…
城内と言えども安心はできないのだ。

世が乱れている証拠。

曹操は賊らしき男に用心しながらも徐々に近づいて行った。
相手を刺激しないよう、ゆっくりと腰にはいた剣の柄に手をかけた。

近づくにつれ、輪郭がハッキリしてくる。

あれは子供だ。



子供までもが賊の真似事か…



痛ましい時代がきたものだ…

ふと見えた賊の顔に曹操は目を丸くした。



元譲…?



見間違いかと思い目を擦るが、その顔は見間違いようがない。まごうことなき己の七つ下の従弟だった。



「元譲、剣など持って何をしている」



様子がおかしいのに気づき早足で近づくと、元譲は首から下が真っ赤だった。

所々に血飛沫を浴びた顔は虚ろで、曹操が声をかけたのにも気づいていない。



「元譲!おいっ!元譲!」



怪我でもしているのかと焦り体中を調べるが、どうやら全て返り血らしく安堵する。
肩を掴み揺さぶると漸く焦点の合った目が曹操を捉えた。



「孟徳兄…」



掠れた声は震えていて、聞き取るのが困難な程。



「孟徳‥兄…、俺……人殺した…」



衝撃的な言葉を紡ぐと、それを合図に大きな目が見る見る涙を浮かべだした。



「人を殺したって、何があった!」



血塗れの体を布で拭ってやりながら、流石にこの姿はまずいと、通りの影に連れていく。
ガタガタと震える体を宥めるように撫でてやると、元譲は小さく息を吐く。



「落ち着いたか?元譲、何があった。」



再度問うと、元譲はわからないと言うように首を振った。



「兄弟子‥が‥いきなり上に乗っかってきて…」



嫌な予感に、曹操は元譲の衣服の襟を開く。
薄い胸に点々と残る紅い吸い跡…

予感が的中した事に舌打ちする。



兄弟子に陵辱されそうになり、わけもわからず手にした剣で抗ったのだろう。



「孟徳兄…俺、死刑…?死ぬの?」



ガチガチと鳴る歯を必死に止めようとしながら元譲は聞いてくる。

人を一人殺したのだ、捕まれば死罪は免れないだろう。

だが…事情を話せば情状酌量の余地があるかもしれない。

しかし、曹操は元譲が陵辱されかけたなどと口が裂けても言えなかった。

自分以外の人間が元譲に触れようとした…



そんな奴死んで当然だ。



曹操は真剣にそう思った。



「元譲、お前は死刑になんかならない。何故なら、俺が助けるからだ。」



そう告げて笑いかけてやる。

この世で唯一の救いのように、元譲は曹操にしがみついた。



「俺…殺す気なんかなかったんだ…孟徳兄…俺、罰当たる…?」
「そんなもんあるわけないだろ、罰があたるっていうならば、その兄弟子に罰があたったのだ。元譲は己の身を守っただけだ」



しっかりと抱きしめてやると元譲はただ曹操の背に腕を伸ばし、縋るように服を握りしめる。
まだ肉の薄い体を抱きしめながら、曹操は絶対に殺させはしないと呟いた。







その夜、元譲の父らとの話し合いで、元譲は父の遠方の友人に匿われることになった。

信用のおける人物だし、なにより元譲の父は大きな貸しがあると言っていたので、とりあえずは安心だろう。

役人が来るのも時間の問題だ。
元譲は明日の深夜にひっそりと洛陽を起つことになった。

顔の利く北門の門番に鼻薬をきかせ、密かに抜け出すのだ。
そして、そこからは元譲の一人旅になる。

頻繁に賊が出る世の中、曹操は元譲が心配だった。

寝ようと寝台に横になっても、嫌な想像が浮かび、結局気になって眠れない。曹操は夜の夏侯家に忍び込んだ。

足音を忍ばせて中庭を抜け、真っ直ぐに元譲の室へと向かう。

元譲の室には当然のことながら、灯りはなく。静かに闇が満ちていた。



「元譲…」



小さな声で名を呼ぶと、奥からカタンと物音がし、応えるように呼びかえされる。

室に入ると、元譲は闇の中で一人膝を抱えていた…



「元譲、叔父上には師を侮辱されたために斬ったと伝えておいたからな…大丈夫か?」



たとえ元譲の父だろうが、真相を明かすつもりはなかった。
二人の胸に秘めていればいいと思った。

元譲は曹操の言葉にも、すっかり落ち着きを取り戻した様子で頷いた。



「孟徳兄、色々ありがとう……」



泣き笑いのような顔で礼を言われ、曹操はたまらなくなった。

明日、元譲は旅立ってしまう…

次はいつ会えるだろうか。

悪くすれば二度と…

曹操は、浮かび上がる最悪の事態を振り払うように、首を数度振った。

明かすつもりのなかった思いが溢れそうになる。苦しかった。



「元譲…」
「いつも迷惑かけてばかりだった…ごめん…最後まで迷惑かけた…ごめん。こんな従弟いらないよね…」



自嘲するように笑う元譲を曹操は抱きしめた。



「これっきり最後のような事を言うな」



驚きに開いた目から涙がこぼれるのを、肩に暖かく湿り気を感じた事で理解する。



「元譲……言わないつもりだった…できれば、このような思いは俺一人で背負おうと思っていた…」
「…孟徳‥兄…?」
「…お前が好きだ」



この胸に生涯秘めようと思っていた思いも、言葉にすればなんと自然なことか…



「お前が小さな時から、ずっと…」



微かに震えが伝わった。
震えているのは自分なのだろうか、元譲なのだろうか…



「だから…必ず戻って来い、俺の元へ!」
「うん、絶対帰る…孟徳兄の傍に」



どちらともなく自然と唇を重ねた。

昔交わした飯事のくちづけではなく。

恋人のくちづけを。



「元譲…お前に俺を刻みつける。お前は俺のものだという証を…」



そう告げて、曹操は衣服の襟元に唇を寄せた。
小さく後ずさる腰を引き寄せ、そっと下肢に触れると元譲は顔を赤くし瞳をキツく閉じた。



「元譲、目を開けろ…怖いことなどない、お前を抱くのは誰だ?」



ゆっくりと開かれた瞳の中には自分の姿が移っていた。

言う程余裕のない顔に思わず苦笑する。



「孟徳兄…」
「もう兄と呼ぶな…お前だけは俺を孟徳と呼べ。いつまでもだ」
「孟徳…」
「元譲…元譲、愛してる」



耳元で甘く囁けば、元譲は唇から甘く吐息を漏らす。



「ほんのしばしの別れだ、元譲…それだけだ」



小さな胸の突起を啄みながら帯を解いた。元譲の全てが目の前に現れる。
ほんの少しの愛撫にも、元譲の可愛らしい陰茎は既に反応を見せていた。
まだ成長しきっていないそれは、応えるように天を向き、僅かに塗れそぼっていた。



「孟徳っ…ッ……それっ…駄目だ…」



乳首を吸い上げられ、刺激から跳ねる体を抱きしめ、更に快楽を引きだそうと元譲の陰茎をしごく。

悲鳴のような声を上げ仰け反る体は幼いながらも既に妖艶で、曹操は理性が擦り切れそうになるのを感じ、唇を噛んで耐えた。



「やぁっ、あッ…っ…あぁぁあっ!」



一際高く声をあげ、元譲はあっけなくはてた。くたりと脱力した体を抱え、寝台に寝かせると、余韻に蕩けた目で見つめられる。
無意識に煽ってくるのだから堪らない。

手に付いた元譲の精液を、後ろの窄まりに塗りつけ、ゆっくりと円を描くように撫でた。
驚いたように起き上がる体を反対の手で制し、徐々に指先に力を込めていく。
肉の輪が異物を押し出そうと締め付けてくるが、太ももを撫でながら少しづつ差し込んでいくと、肩を強く掴まれる。



「もっ…徳ッ…」
「しっ…」



根元まで入ると、元譲は目を見開き、ハッハッと短い呼吸を繰り返していた。



「元譲、大丈夫だ。お前を傷つけはしないから」



優しく囁き、額に唇をあて宥める。

じっくりと時間をかけ、指が三本まで入るようになると、元譲は最早意識まで朦朧とさせていた。
指を咥え込まされた尻がぴくぴくと震えている。



「もう少し我慢しろ…」



緊張している姿が痛々しく、すぐにでも好いところを探し出してやろうと指を巡らせると僅かなシコリに触れた。



「ヒッ…あっ!」



瞬間、甘い声をあげ元譲の体が大きく仰け反った。
見つけ出したばかりの場所を重点的に指で撫でれば、元譲の体は面白いように応えてくる。



「やっ…も…とくっ、やめっ、そこッ…ああっ」



初めての体の中を暴れる快楽に怯えと愉悦の涙を流し、元譲は許しを請うていたが、ここまで来てやめられるわけもなく。
呼吸をも奪うかの様な激しいくちづけで拒絶の言葉を飲み込んだ。



「んぅッ…んー…」
「っは、元譲っ…愛してる…愛してる」



唇を開放し、顔中に唇を降らせながら、愛の言葉を告げる。あまりに切羽詰った声に、曹操自身驚いていた。
こんなにも煽られるのは元譲だからなのだろう。

突然指を引き抜くと、元譲は喪失感に体を震わせた。
呆然としている隙をついて、自分の陰茎を宛がう。一瞬怯えの色が瞳に浮かんだが、曹操は髪を撫でてやりながらゆっくりと怒張を埋め込んだ。



「っ…い、たい……」
「ほら、ゆっくり息を吐くんだ…」



強烈な締め付けに、自分も痛みを感じたが、表面には見せず、元譲の額に浮かんだ脂汗を袖でそっと拭ってやる。
言われたとおりに息を吐き出す様子が愛おしかった。

全て収め終わると、曹操は労わるように何度も唇を啄ばんだ。
嬉しそうに笑う元譲がたまらなく可愛い。



「孟徳…大丈夫だから…動いて」



そう言ってしがみ付いてくる小さな体を抱き、そろそろと腰を動かした。
カリの部分が前立腺にあたるのだろう、元譲は我慢できずに甘く鳴き声を上げる。



「あっ、ぁ…孟徳っ…んっ…あ」



無意識に快楽を貪るかの如く腰に脚を絡み付けてくる。
熟練した女を抱くよりもずっとずっと体が熱くなった。

堪らず動きを早めると、元譲は髪を振り乱し喘ぐ。

締め付けが強くなり、元譲の限界を覚ると、曹操は高く鳴く箇所を狙い、腰を突き上げた。



「んくっ…もうっ…やッ…でるぅっ、ああぁっ!」



ビクビクと体を震わせ、お互いの腹の間で精が弾けた。

痙攣するように締め付けてくる内部に一気に追い立てられ、曹操は慌てて自身を引き抜くと、元譲が吐き出した精液と混じるよう、腹に白濁を注いだ。
白濁は混じり合い、一つの水たまりになった。

元譲と自分もこうして一つに溶け合ってしまえばいいのに…



「元譲…大丈夫か…?」



半分意識が飛んでしまっているような元譲に驚いて声をかける。
呼んでも反応を示さない様子に、頬を軽く叩くと漸く瞳が曹操を捉えた。途端顔を朱に染め、掌で隠してしまった。



「どうした?元譲?」
「恥ずかしい…女みたいに声出して…」



女を抱いたことなどないくせに、女みたいと口にする元譲が可愛らしかった。

抱かれ、喘いだ自分が恥ずかしいと、顔を隠す元譲に思わず笑みがこぼれる。

掠れた声がまた愛らしくて、曹操は顔を覆う手にくちづけた。

女を抱いてもこんなに満たされた気持ちになったことはなかった。
ガラにもなく涙が出そうになって、曹操は目を細めた。



「元譲…俺を愛していると、死ぬまで俺しか愛さないと誓え…」
「……孟徳を愛してる…死ぬまでずっと」



返ってきた誓いに一層笑みを深くし、曹操は元譲を抱きしめた。



「しばしの別れだ、元譲。また、俺の元へ帰って来い、必ず」



迷いなく頷く元譲に今一度くちづけて、曹操は愛おしげに微笑んだ。









end





長らく停滞していた更新をやっとしたって感じですか…
これは、拍手のちび元譲や愛慾とかと中身をリンクさせたっぽい感じにしてみました。
新しく書く小説を、前のと絡めたりするのって好きだったりします。
よそ様の素敵な小説を読んだあとに凹んだ状態で書いたので、微妙でしょうかね…?(笑)
最後まで読んでいただきありがとうございました^^

2006.3.9

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