-ご褒美-





「よし、今日の戦いで一番手柄を立てた者には褒美をやるぞ」

曹操がまたいつもの悪ふざけを始めた。

夏侯惇は半眼で睨みつけたが当の曹操はサラリと流しにやりと笑っただけだった。

遊びではないのだからと曹操を嗜めようと思いふと気づく。

「殿からの褒美は武人にとって一族の誇りにもなりうる・・・
孫が出来た時 おじいちゃんは殿に褒美を貰う程の武将だったのだぞv」

とかなんとか言っちゃって。

「おじいちゃんすご〜い」

とか尊敬の眼差しを受ける。


いいっ!


夏侯惇は少々不気味にニマニマしていた。

「ふふふ・・・今日の手柄は俺のものだ・・・」

出来てもいない孫との老後を激妄想し一人燃える男・夏侯惇元譲。









「どけどけどけぇいっ!」

戦場に夏侯惇の怒声が響き渡る。

刀身が広く重い滅麒麟牙をブンブン振り回し敵将をぶった切りまくる。

「はっはっはっはっはっはぁっ!失せぇいっ!」

司馬懿も真っ青の高笑いをしながら戦場を駆け抜ける姿は思いっきり異常で 味方の将もちょっぴりひいていた。

「おい、今日の惇兄怖いんだけど・・・」

夏侯淵が引きつりながら側で戦う曹仁に同意を求める。

夏侯惇とは物心ついた時から側にいる曹仁達でさえ そんな異常な夏侯惇は初めてのようだった。

「うむ・・・なにやら惇兄は殿の褒美が欲しいらしい・・・物に執着しない惇兄にしては珍しい」

「とにかく・・・今日の惇兄は敵味方の区別つける程の理性が働いてないようだから
巻き込まれないようにしないと」

まるで猪である。

夏侯惇が走り去った跡に転がる気絶した曹操軍の兵卒に夏侯淵は片手で謝る。

惇兄に近づいたのが不運だと思って許してくれ・・・

そんな従兄弟の気も知らず、遥か彼方では絶好調に壊れた夏侯惇がわめいていた。

「我こそは真の三國無双なり!」

とうとう千人斬りを達成したらしい・・・

戦闘が始まってから終始真・無双乱舞状態のような夏侯惇を避ける味方の将。

まったく軍略もくそもないはた迷惑な存在ではあったが、あまりの異様さに誰一人ツッコミを入れるものはいなかった。

結局本日の戦は夏侯惇の一人舞台だった。

後日、隻眼の鬼将軍、戦場を笑いながら人を斬る。

町ではそんな怪談話が流れたとかどうとか・・・

「ふぅ、壱、弐、参・・・・」

無駄に爽やかに一昔前の少女マンガにありがちな星を飛ばし
額の汗を拭いながら夏侯惇は討ち取った敵将の首を数え始めた。

「ふふふ・・・これだけあれば(首)孟徳も俺に褒美をやらずにはおれまい」

兵卒に命じ荷車に敵将の首を運ばせると返り血で全身を真っ赤に染めた夏侯将軍は
ご機嫌で凱旋したのだった。









「どうだ孟徳!俺の手柄が一番だろう?」

腰に手を当てさぞ嬉しそうに夏侯惇は曹操に告げた。

「ほう、流石は世に名を馳せる隻眼の鬼将軍夏侯惇だのぅ」

そんな夏侯惇の様子を可愛い奴と心の中で思いながら、曹操は顎の髭を擦りながら感心してみせる
それを見て夏侯惇は浮かれまくりだ。

しつこいようだがまだ出来てもいない孫との会話妄想に余念がないようだ。

「おじいちゃんかっこい〜僕もおじいちゃんみたいな将軍になりたいなぁ」

妄想もそこまでやれば立派なものだ。

「よし、今日の一番手柄は夏候惇将軍とする」

曹操が頷きながら将軍達に告げた。

よっしゃ〜!

心の中でガッツポーズの夏侯惇。

「孟徳、して褒美とはなんだ?」

キラキラと隻眼を輝かせ早速おねだりなんかしてみる。

まるで親に甘える仔犬の様だが夏侯惇はそんなこと気づきもしない。

「褒美なんだが、今はまだ用意しておらなんだ。すまないが元譲、
今夜にでも 我邸に取りに来てくれ。それまでにお主にぴったりの褒美を用意しておこうぞ」

「わかった、しっかりいい物を用意しとけよ」

夏侯惇は夜の約束を取り付けると鼻歌を歌いながら浮かれまくりでその場を後にした、
なぜだか曹操まで鼻歌まじりでご機嫌だったが褒美に喜ぶ夏侯惇にはそんなこと知ったこっちゃなかった。









「夏侯将軍お待ちしておりました、丞相がお待ちです」

曹操の邸に着くと家人がすぐに案内してくれた、長い回廊を抜けると曹操の私室に通された。

「相変わらず書簡だらけだな・・・そのうち書簡に潰されるんじゃないのか」

部屋に山積みになった書簡をぐるりと見回す。

ふと机の上に美しい装飾を施した木箱を見つける。

「あれが褒美か?」

夏侯惇はうきうきしながら木箱に向かった。

なかなか曹操がこなくて焦れていたので、無礼だがちょっとだけ覗いてみようと箱の蓋に手をかける

少し持ち上げ中を覗き込むと質素な作りの陶壷が入っていた。

「褒美ってこれかよ」

夏侯惇は少しがっかりした。孫に自慢する品としては少し地味目だったからだ。

「でもまぁ、孟徳に貰った褒美ってことには変わりない、夏侯一族の家宝にしよう♪」

曹操から貰い物をしたのは初めてでないが戦の褒美っていうのがポイント高いのだ。

「しかし遅いな孟徳のやつ・・・」

一向に来る気配のない部屋の主に夏侯惇は知らず唇を尖らせる。

「おい行儀が悪いぞ元譲」

「うぉっ!!」

突然後ろから頬っぺたを抓られ夏侯惇は思わず悲鳴を上げる。

いつの間に後ろに来たのか曹操がすぐ後ろに立っていたのだ。

「おっ・・驚かすな孟徳っっ!!」

動悸でバクバクする胸を片手で押さえ真っ赤になって怒る夏候惇にくすくすと笑みをこぼす。

「褒美はもう見たであろぅ?まったく主君がまだ来ていないのに覗き見とは子供みたいだなお主」

「こっ子供みたいで悪かったなっ」

「まったくいくつになってもお主は初い奴だの」

堪えきれず吹き出す曹操に夏侯惇はますます真っ赤になる。

「アホかっっ早く褒美をよこせっ俺は帰るっ」

頭から湯気がでるんじゃないかって勢いで怒り出す夏侯惇に曹操はますます笑いが収まら ない。

「もういいっ褒美などいらんっ俺は帰る」

とうとうキレて部屋を出ていこうとする夏侯惇を曹操は慌てて捕まえた。

「元譲っ元譲っ待て儂が悪かった、ほら褒美だぞ。急いで手に入れるのは大変だったのだぞ」

そう言って夏侯惇の手に褒美の入った木箱を持たせる。

不機嫌で半眼だったもののやはり褒美は欲しい夏侯惇は唇を尖らせたまま木箱の蓋を開け 壺を取り出す。

「これが大変だった?俺にはその辺にあるありがちな壺にしか見えんぞ?」

手のひらに乗る程の大きさの壺はずっしりと重く中に何か入っているようだった

「もしか して褒美は中身か?」

そう言い壺を振るとポチャポチャと液体の揺れる音がした。

「御名答、褒美は中身じゃ」

曹操のにやりとイヤな笑いに夏侯惇は背中に冷たい汗が流れた。

嫌な予感がする。止せばいいのについつい中身を聞いてしまった。

「な…中身は何だ?」

ひきつる夏侯惇に曹操は見とれる程の優雅な笑みを返すとキッパリと言った。

「中身は媚薬じゃ♪お主への褒美は媚薬とこの儂(ハート)」

「ぎゃーーーーーーっっ!!」

曹操の邸には夏侯惇の悲鳴が響きわたった。

「照れずともよいぞ元譲vvv今宵は朝まで可愛がってやるから、
よい声で鳴いてしっかり褒美を受け取るがよいvvv」






結局、夏侯惇は朝までキッチリ褒美と称したセクハラをうけましたとさ(滅)











「もう二度と・・褒美には騙されんぞ・・・孟徳・・」





いきなり馬鹿っ話すみません。
夏侯惇はやはり弄られ役だと・・・(コラ)
褒美の内容は裏にありますので、見たい方は
裏部屋にてお読みください。

2004.09.01



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