-香-






深夜、曹操から急ぎの用との使いが、夏侯惇の邸へと向かった。

邸へ着くなり、慌てた様子で曹操からの言葉を告げる使者…


夜中に呼び出されるのは、戦時中でもなければ滅多にないことで、何事かあったのではと 夏侯惇は危惧した。


今、曹操軍は河北の袁紹と睨み合いの状態が続いていた、いつ何時開戦してもおかしくは ないのだ。

急ぎ仕度をし、夏侯惇は使いの者を振り切る早さで曹操の元へと馬を走らせた。


「孟徳っ!何事かあったのか?」


寝所に案内され、これは余程急ぎの事と、声が大きくなるのを抑えられなかった。

…が、寝所の中に足を踏み入れ、夏侯惇は眉をしかめる。

入った瞬間にもわかる、特殊な香。

媚薬効果のある物で、何度か使われた事のある香…

夏侯惇は、今まで行われていただろう情事を意識し、顔が熱くなるのを感じた。


「孟徳!…袁紹が動いたのか?」


問う言葉には、何の返事もなかった。

ただ、上半身を露わにしたままの曹操は、ゆったりと寝台に腰を下ろし異様な空気を纏っ て夏侯惇を見つめていた。

頭がクラリとしだし、夏侯惇は唇を噛む。

吸い込んだ香が身体を侵しだしたのだ。

マズいと思ったときには、最早中心に熱が集まり始めていた。


「どうした?元譲よ」


夏侯惇の身体の変化など、とうに気づいているはずなのに、曹操は言って笑った。
まるで猛獣を思わせるその笑みに、夏侯惇は眉を寄せる。


「…孟徳、呼び出した要件を、聞かせろ…」


ぼんやりしだした頭を必死に働かせる。霞がかっていくような感覚に舌打ちするも、鼓動 が速まるのを感じ、このままここにいてはいけないと、頭のどこかで警告の声が聞こえ る。


「っ…要件が…ないのなら…帰る、ぞ…」


どうしようも無く息があがる。

既に自身は頭を擡げ始めていた。


「用はまだ済んでおらぬ、この部屋を出る事許さんぞ」


曹操は寝台から腰をあげ、夏侯惇に詰め寄った。


顔には先程から、変わらぬ笑みが張り付いていて、夏侯惇の頭の中の警告が強くなってい く。


「お主を抱く為に呼んだのだ、まだ帰すわけにいくまいよ?」


急に腕を掴まれ、寝台へと引きずられる様に連れていかれ、突き飛ばされた。


うまく動かない体は、そのまま寝台へと沈む。


「ッ…孟徳…やめろ…」


乱れた敷布が不快で、夏侯惇は顔を歪ませた。

汗を吸い、まだ女の温もりの残る寝台。

今まで、そんな無神経な扱いを受けた事はなかったのだ。


自分だけを抱くなどという、非生産的な事があるはずもないとわかりつつも、やはり体を 繋ぐ時には他人の影は感じたくなかった。


自分は男。

いくら想いを深くしようが、その事実は変わらないし、共に戦へと赴ける男という立場を 捨てたいと思ったことなどなかった。


だが、恋情を持って曹操を見始めた時から、嫉妬という思いがあったのも否定できなかっ た。

曹操の女達と己…同列に置くなど馬鹿げている。
頭では理解している。
しかし、心が追いつかないのだ。

まるで獣の様に四つん這いにさせられ、艶やかな髪が、サラサラと音をたてて流れ落ち る。


「やめろっ!孟徳…今日は…嫌だッ!」


暴れたつもりだった。

しかし、力の入らない体の抵抗が、どれほどの意味を持つだろうか。


手慣れた手つきで衣服をはだけさせていく手を、悔しい思いで見つめる。


「収まらぬのだ…」


そう言って、肌を滑らせる手を胸の突起へと持っていき、先端を指の腹で押しつぶされ た。


「くはッ…やめ…孟徳…」


たったそれだけで、媚薬に浸食された体は激しい刺激を感じ背を仰け反らせる。
その動き は、皮肉にも後ろにいる曹操に自分の窄まりを見せつける結果となった。


「やめろと言いながらも、体は悦んでいるぞ」


立ち上がり蜜を流す陰茎を弾かれ、悲鳴のような嬌声をあげて夏侯惇の体がガクガクと震 えた。


「孟徳…頼む…やめてくれっ…」


情けなさと悔しさ、涙に滲む瞳で懇願するが、その様子を一瞥しただけで曹操は夏侯惇の 半開きの口に指を突っ込んだ。


二本の指で舌を挟まれる様にされ、くぐもった呻きと共に、口の端から唾液が伝う。


「んぅ‥ぐ…っ…‥んーッ…」
「よく舐め濡らさぬと、辛いのは元譲…お主よ」


口淫を思わせる動きで指を出し入れされれば、指先が上顎を掠める度に、散々に男に抱か れることに慣らされた体は一々反応してしまうのだ。

苦しさに涙が流れた。


「っ…はぁぁっ!!」


口から指を抜かれ、ホッと息をついたのもつかの間、震える程に強烈な快感に思わず叫び 声をあげる。

いつの間にか、体を覆う布は全て取り払われていて、今まで口内を蹂躙していた指が、今 は体内を貫いていた。

湯でも注ぎ込まれたのではないかというほどの熱に、腸壁が燃えるようだ。

ほんの少し動かされただけで、夏侯惇はあっさりと精を吐き出してしまった。


「後ろに指を入れられただけで、もう達したのか?元譲」


前に触れられずに、後ろに指を咥え込まされただけで…そう意味を含ませ揶揄されれば、 夏侯惇の顔が朱に染まる。

しかし、薬によって無理矢理高められた体は、一度ばかりの射精では疼きを止められるこ となどなかった。

未だ後ろを穿つ指は、今は動かされていない。
なのに、夏侯惇の陰茎はもっととねだるが 如く再び起ち上がり、蜜を垂らし始めている。


「いやらしい身体め…」
「っ…あぅッ!やめ…動かす‥な!」


指で内壁をなぞるようにされると、達したばかりの敏感な身体がキツいと悲鳴をあげた。

先端部から透明な雫石が糸の様に後から後から流れ、敷布に染みを広げていくのが涙で滲 んだ視界に映る。


「儂の為に身体までを変えたお主には、褒美をやらんとならぬな」
「はっ…な‥なに…?」


余韻に霞む頭で必死に理解しようと振り返れば、猛った陰茎が、指を咥えたままの後孔に ピタリとあてがわれた。


「ま‥まさか‥や…無理だ!孟徳っ!止めてくれっ…」


後孔には既に曹操の指を二本咥え込まされていた。
それを引き抜かずに、挿入しようとする曹操の行動に、夏侯惇の顔は一瞬で血の気が引いて青ざめ た。


「お主なら大丈夫だ」


無責任な言葉と共に無理矢理打ち込まれる肉の杭。


「ッ‥ぐぁぁぁああっ!」


まるで身体を真っ二つに引き裂かれるが如きの痛みに、夏侯惇の意識が飛びかけた。

ぷつりと切れた入り口が血を流し、曹操の指と陰茎を紅く染める。

痛みに喘ぐのも無視し、律動を始められ、目の前で無数の光が炸裂してやがて真っ白になった。


「あひっ…や…ひゃ…んっ…ああっ‥」


意味をなさない言葉が勝手に口から漏れる。
最早身体を支える事さえも出来ず、不快だと思っていたはずの敷布に沈み、頬と肩で体を支えた。

腰だけを高く上げさせられ、狗のように後ろから突き上げられれば、前は破裂してしまいそうな程 に張り詰めて強い快楽を物語っていた。


「ああっ、も‥徳っ‥あぅ…はぁぁっ‥あっ…」


肉を穿つ音、寝台の軋み、いやらしく濡れた水音、自分のものとは思えない、甘い喘ぎ。

何もかもが消え去り、快楽を追うだけの獣になりさがろうとした瞬間、夏侯惇の耳に一際、 ハッキリとある音が聞こえた。


シャン…


寝台の上に落ちた、どの夫人のものかわからぬ簪…


目にした途端、冷水を浴びせかけられたかの様に、夏侯惇の頭が冷えていく。


「くっ……嫌だっ‥離せ…嫌だ…」
「む…?」


急に抵抗を始めた夏侯惇に、曹操は顔を覗き込む。
唾液と涙でぐちゃぐちゃなその顔は痛みを堪えるように表情を歪め、ある一点を見ている。
視線を辿れば、寝台の上の簪に行き着いた。


「嫉妬か?元譲よ…」


曹操の顔が笑みの形に歪む。


「違っ…あっ…ぅ‥」


違うといいながらも、目は簪から離れてくれない。

曹操は手を延ばし簪を拾い上げた。そして、見せ付けるように手に持った簪にいやらしく舌を這わせる。

その間もゆるゆると意地悪く、夏侯惇の内部を攻め続けるのだ。


「元譲…お主もたまには飾ってみよ」
「…は…?‥なに言っ…」


言葉は最後まで紡がれなかった。
尿道に感じる焼けるような熱。
無理矢理に拡張される痛み。


「ひっ…やっ…孟徳、冗談はやめ…あぅっ」


慌てて抜き取ろうとする手を後ろから掴み、後ろ手に腰の位置で押さえつける。

腰を緩く揺すってやれば、夏侯惇の尿道に差し込まれた簪から、シャラシャラと繊細な細工を思わ せる高い音が鳴った。


尿道に突き刺さる恐怖と、そのようなところを犯された事への精神的な衝撃。

夏侯惇は、見開いた右目から涙をボロボロと溢れさせた。


「元譲、お主のここ、可愛らしい音を立てているぞ」


突き上げる度に鳴る簪。
頭の中に簪の奏でる音がやけに大きく響いた。


「やぁっ!も、う‥徳ッ‥いやだっ!」


敷布に額を擦りつけながら嫌々する様子を眺め、曹操は簪をそっと摘み、中で回転させた。


「ひっ!!…」


異常な程に跳ねる身体。
曹操はその反応に笑みを深め、腰の動きに合わせ、簪を抜き差ししだした。


「ひぃ…やっぁっあっ、やぁっ‥ぁあっ!」


出てはいない筈なのに、無理矢理に引きずり出すかのように射精させられている感覚。

実際は簪が栓となり、射精できないでいるのだが。
擬似的な射精感が抜き差しされる度に身体を襲う。

まるで達しっぱなしのような恐ろしい快楽に、夏侯惇は狂ったように鳴いた。


「あぐ‥ぅっ…ッ…やぁっ…好いっ…孟徳!あっ‥好すぎるっ!…死ぬっ!」


グッと首と背が反った。

次の瞬間、夏侯惇は意識を手放し、声もなく寝台に倒れ込んだ。


「っ…空達きしおったか…」


意識の無くなった身体に精を注ぎ込み、曹操は自身を引き抜いた。
夏侯惇を見ると、全身はびっしょりと汗をかいて、前は未だ張り詰めたままだった。

簪を持ってそっと引き抜く。

栓が無くなると、夏侯惇の陰茎は先端から白濁を吐き出した。

そして次の瞬間、意識の無いはずの身体はビクッと痙攣し、小水を漏らして敷布を濡らしていく。


「くくっ…元譲はいまだにお漏らしか…仕方ないな」


汗で張り付いた髪を掻き揚げ、曹操は笑った。











「ん…も…徳……」
「目が覚めたか、元譲…」


夏侯惇が目を覚ますと、敷布はすっかり新しいものへと変えられてあり、夏侯惇自信もきちんと 衣服を着せられていた。

喉がカラカラで声が上手く出ない。
首元に手をあて咳き込む。

曹操は水差しから口に含むと、それを夏侯惇へと口移しで飲ませてやった。


「はっ…孟徳…」
「気分はどうだ?」


言われて、自分が何をされたかを思い出す。
途端、怒りと羞恥に全身を紅潮させ、目を剥いた。


「孟徳っ!いったい何を考えているっ!」


体を起こすと、腰のだるさに思わず片手をついてしまった。

ひりひりと軽い痛みを訴える尿道。

夏侯惇は歯噛みし、顔を横に背けた。


「女がな…暗殺を企てたのだ」


!!


弾かれるように曹操を見るが、その表情は凍てついたように何色も見せてはいなかった。


「怪我は‥ないのか?」
「女如きに傷を負わせるほど鈍ってはおらん。儂の手で斬り殺した…ほれ、そこの床にまだ真新しい血の跡が 残っているだろう」


言われて目を向ければ、確かにいくらか赤黒く拭き残したように血の跡が見えた。


「死に際に何と言ったと思う…?」


夏侯惇は首を傾げた。


「元譲、お主の命での暗殺だと吐きおった」
「なッ!!馬鹿なっ‥俺が何故孟徳を殺さねばならんッ!」


そして、その言葉の意味にハッとして目を向ける。


まさか…疑っているのか…?


「孟徳…俺がお前を殺すと…?…そんなことがあると思ったのか…?」


体中から何もかもが抜け落ちていくようだった。


「まさか…お主が儂を殺せるわけあるまい。そんなことをすれば、自分を殺すようなものだ」
「孟徳…?」
「お主が、儂のおらん世界で生きていこうと思わん事ぐらいわかる」


自惚れでも揶揄でもない。

ただ、淡々と事実を口にするように曹操は言った。

それでも夏侯惇には充分だった。


「では、何故俺にあんな…あんなことをした」


あまりの恥ずかしさに、口篭る。
顔が熱くてたまらなかった。


「大方、袁紹の手の者であろう…だがな、儂を殺そうとしておいて、お主の名を出したのが許せんかったのだ」


「だからって俺にあたるなよ…」


夏侯惇の言葉に、曹操は優しげに目を細めた。


「だが、お主の身体で儂の知らぬところがまた一つ無くなった。悪い事ばかりでもなかったぞ?」


悪気もなく告げる曹操に、夏侯惇は諦めの溜息を漏らした。











やってしまいましたよ!尿道プレイに萌えた結果の愚行(爆笑)
執筆するにあたり尿道プレイについて調べたところによると、拡張感だけで射精感はないようです…(残念/笑)
こいつやべぇよ!とか思っちゃった人は、次回からはここには入らないことをお勧めします^^

2006.05.11