-傍ら-






それから袁紹は元譲とよく過ごした。

素直で可愛い元譲と過ごす時間は袁紹の気持ち を安らかにさせた。
元譲の方も自分の知らない事をたくさん知っている袁紹との時間は有意義なものと感じ ていたし
なにより優しい袁紹が好きになっていた。

「元譲、今日は何しようか」

「本初っ本初!俺武術を教えて欲しいっ」

くる度剣術の稽古をしたがる。

元譲は二振りの剣を抱えて跳ねるようにねだった
同年代 よりスレてないというか純朴というか元譲はそんな幼子のような姿をよく見せた。
それだけ袁紹に打ち解けているということだが袁紹はそんな元譲がおかしくていつも 笑ってしまう。
すると気づいた元譲が拗ねて唇を尖らせるというような事を繰り返して いた。

「元譲は武術が好きだなぁ、大きくなったら武人になりたいのか?」

微笑みながら元譲から剣を一振り取った。勿論危なくないよう刃引きはしてある。

「うんっ俺武将になるんだッ誰にも負けない天下無双の武人だぞ」

大きな瞳をキラキラと輝かせ興奮したように語る。

小さいくせに随分と大きな夢だなぁっとおかしくなったが、言うと拗ねるので口にしなかった。

「そうか、なら元譲は俺の武将になるか?召しとってやるぞ?」

「どうしようかなぁ、本初が命かけてもいい奴だって俺が認めるくらいの凄い奴になった ら考えてやるよ」

からかいがちに袁紹が言うと生意気にもからかい返してきた。
袁紹はそんな元譲の生 意気さが可愛く、たまらず吹き出した。

「よし、じゃぁ元譲を従えられるくらい凄い奴になったら元譲は俺の武将だぞ?」

「うん約束だよ。だから早く剣術教えてよっっ」

じれて元譲が剣を構えた、まだ細い腕でしっかりと柄を握りしめ一丁前に剣先を袁紹の 喉に向ける。
袁紹は約束だからなと念を押すと元譲に剣の手ほどきを始めた。

袁紹にとっては至福の時だった。












「今日も剣術の稽古してっ本初」

つい先日ボロボロになるまで稽古してやって疲労困憊で帰って行ったのに、もうケロリと してやってきた。
余程剣術が好きなのだろう。ひたむきに教えを請う姿は良いと思った。

袁紹は訪ねてきた元譲にたまには部屋にあがるようにと勧めた。
剣術もいいがもっと色々な事を元譲に教えてあげたかった。
最強の将軍になると言って笑う元譲に自分の持っている全ての物を教えてあげたい。

自分にできることはなんでもやってあげたい。
それが袁紹にとっての元譲への想いだった。

「元譲、剣の鍛錬もいいが学術はどうだ?」

すると元譲は苦虫を噛み潰したような顔をした。

つまり好きじゃないってことか…

袁紹 は苦笑しながらため息を漏らす

「いっぱしの武将になりたいのなら兵法くらい知っとかな きなきゃ駄目だぞ、元譲」

「兵法なら従兄に無理矢理たたきこまれてるもんっ」

唇を尖らせて拗ねたように言う、どうやら従兄とやらに嫌々勉強させられているらしい。
色々質問を投げかけてみると驚く程戦に詳しかった。
実戦に役立つような知識がつらつらと元譲の口から出てくる
教えてくれる従兄とやらの知能の高さまで想像できた。
元譲くらいの年の子でこれ程の知識のある子はそうはいま いと思った。

実は元譲は剣術の腕前もかなりのものなのだ。
生まれつき勘がいいのだろう、天狗にならないようにと袁紹はいつも意識して負かしていた。
半端に相手した のでは1本取られるかもしれないのだ
体さえできればいつでも戦に出られると言っていいくらいの力が元譲にはあった。

まだ小さいこの体にはいったいどのくらいの可能性が秘 められているのだろう…

「凄いな元譲、大きくなったら本当に凄い武将になりそうだ」

関心して誉めると、大きな瞳をキョトントし、そして照れくさそうに目元を染めて笑っ た。
照れるとすぐ赤くなる仕草が袁紹は好きだった。

「従兄は凄いんだよっすっごく頭がいいし剣術も強いんだ!顔もかっこいいし女の子にモ テるんだ」

照れ隠しからか元譲は従兄の自慢話を始めた。
かなり懐いているのだろう、見えない尻尾が見えるようだ。

袁紹は何故か面白くなかった。
元譲が自分以外にも凄く懐いてる奴がいるのが面白くない。

元譲は俺だけを好きでいればいいのに…

まるっきり嫉妬 じゃないかと気づき内心焦った。

袁紹にとって元譲は自分を名門一族の苦しみから救ってくれた初めての存在だった。
本 人はそんなつもり少しもなかっただろうが元譲のなにげない一言で心が解放された。
無意識の言葉だった、だからこそ袁紹の心に響いたのだ。
そんな特別な存在の元譲が自 分以外を見ているのが嫌に感じても仕方ないことだろう。

大人ぶって接しているが袁紹もまた子供なのだ。












「本初、お前夏侯の息子と最近よく一緒にいるようだな」

私室で書を読んでいた袁紹に父が突然話しかけてきた。
袁紹は瞬間体が強ばるのを感じた、父を尊敬してはいた。
しかし一族の中でも特に名門意識の強い父の存在は嫌でも袁紹の中の劣等感を刺激した。
元譲と出会い大分マシになったものの、袁紹の終わりなき重責はこの父に認められたい。愛されたい。 というところから出ていた。
父親に愛されないジレンマだったのだ。
なので、袁紹は父に会う時が一番プレッシャーだった。
そんな時はいつも袁紹は元譲に会いたくて仕方なかった。
あの笑顔に会いたい、自分は自分なんだそれでいいんだ。と思えるように。

「はい、剣術を教えて欲しいとねだられましたので手ほどき しております」




元譲…




「ふんっ、お前は袁家の跡取りだぞ!子供と剣術遊びする暇があったら勉強でもし ろっ」




元譲…




「勉強はきちんとやって…」
「逆らうつもりかっ!?」




元譲…




いつも父は袁紹が口答えすることを許さない。
子供の可愛いわがままさえ袁紹には物心ついた時から無縁のものだった。




まるでこの人の人形だな…




「…はい…すみません…」

「よいな?もう夏侯の息子とは会うな」




元譲…会いたい




袁紹は唇を噛みしめ頷くしかなかった。






続く



はい、第二話です
ちゃっちゃと続きを書いちゃわないと頭の中のイメージが無くなりそうなので毎日少しづつ書いてます・・・
PC使えない時は携帯で打ってメルしといてと(汗)なんか袁紹かわいそうな奴です・・・自分で書いといてなんですが(笑)
やはり顔のイメージとしては蒼天航路の袁紹を想像して欲しいです。悩みとは縁がなさそうだけど(笑)

2004.09.02