-傍ら-






父が元譲の家に何か言ったのだろう。
夏侯の息子とはもう会うなと言われたあの日から元譲は姿を見せなくなった。
袁紹は心の中で父を恨んだ。元譲を傷つけた事が許せない。
三日と空けずに来ていたのに、もう二週間は顔を見ていない。
会いたいと思ったが父の言葉が袁紹を縛った。

一人でいる事には慣れている筈だったのに、元譲と出会ってからの時間があまりにも楽しすぎて
袁紹は気持ちが沈むのを抑えられなかった。


元譲はどう思っただろうか。いきなり訪ねてくるなと言われて泣いただろうか。
あの大きな瞳いっぱいに涙を溜めたんじゃないかと思うと胸が苦しかった。
それともなんとも思わずに今頃あの従兄とかいう奴と楽しくやっているんだろうか。
情けないと思いながらも袁紹は元譲の言っていた従兄に嫉妬した。
顔も知らない元譲の従兄を憎らしくも思った。

怖い程元譲に依存している。気付いてももうどうしようもない。

元譲だけは特別なのだ。

このまま失ってもいいのか?あんなに大切な者を。

袁紹は部屋にこもって考え続けていた。
もともとこの家に居場所などない。部屋にいることが多かったので今更不思議には思われなかった。



元譲が来れないなら俺が会いに行けばいい。

思い切って袁紹は結論を出した。今まで一度だって父に逆らったことはない。
父は絶対の存在で、その口から発せられる言葉は袁紹には脅迫のようにしか聞こえない。
初めて逆らおうと思った。母を悪く言われたくなくて一度もしたことがなかったが。
このまま元譲と終わりになるのは嫌だ!

後はいつ決行するかだった。










元譲の様子を知る機会が廻ってきた。
今日は久しぶりに袁家で宴を催す。勿論夏侯家も来るだろう。
元譲が来るとは流石に思えなかったが、夏侯家の人間に話しを聞けばいい。

今はどうしてる?元譲は泣かなかった?一人でも鍛錬はちゃんとやってる?

聞きたい事がいっぱいあった。
そして、もうすぐ会いに行くからと告げてもらうのだ。




「あ・・あの、すみません。・・・元譲は・・元譲は元気ですか?」

廊下で夏侯家の人間を見つけた。幸運なことにそれは元譲の父だった。
袁紹は逸る気持ちを抑えられなかった。元譲の事を聞きたい。

「袁紹殿・・・いつぞやはうちの惇がお世話になりました。」

元譲の父親は優しそうな人だ。
袁家から一方的に失礼なことを言われたはずなのに 袁紹の顔を見ても嫌な顔一つしない。
この国きっての名門と自負する父は物言いが横柄なところがある。
恐らく夏侯家にもかなりの傲慢さを見せただろう。

「ち・・父が・・失礼をしたのではないかと・・・」

袁紹は父のことを口に出す時どうしてもしどろもどろになってしまった。
恐怖で躾けられてきたのだ仕方ないと言えば仕方ない。

「いえ。袁紹殿は袁家の長子、これから帝をお助けすべく今は勉学に勤しむ時。うちの息子が悪いのですよ」

そう言って穏やかに微笑まれ袁紹は赤くなった。
どこか元譲に似ている笑い方だった。

「げ・・元譲は?今どうしてますか?」
「最初は泣いていましたが。
曹家に五つ上の従兄がいるのですが、それが慰めてくれていたようで
今は笑うようになりましたからご安心を」
「従兄・・・」

おそらくその従兄が元譲の言っていた従兄だろう。袁紹は唇を噛みしめた。

慰める役も自分でなくては気がすまない。間接的にだが自分が傷つけたのにそれさえも悔しい・・・・

どんな言葉で慰めたのだろう。啜り泣く元譲を抱きしめ背を撫でてやったのだろうか。

腸が煮えくり返りそうだ。

「惇も孟徳に懐いてまして。助かりました」

孟徳・・・?

曹家の孟徳?

袁紹は歯噛みした。曹孟徳。袁紹がこの世で一番憎いと思った相手だった。

自分を否定し、見下した曹孟徳。

彼が・・・自分の大切な元譲の従兄。

絶対に元譲は渡さない。これ以上己の大切なモノを汚されてたまるか。
曹操に対する怒りが込み上げた。

「どうしました?袁紹殿」

急に黙り込んだ袁紹を不思議に思い顔色を伺う。何も悪いことは言ってないはずだがと少し不安気だった。

「げ・・・・元譲に伝えてください。近々会いに行くと」

そう告げると元譲の父は少し困ったような顔をしたが、辺りを軽く伺うと無言で頷いた。






続く



はい、第参話です
なんか袁紹おおげさやな・・・親に逆らいまくりだった添花からすると乾いた笑いが出そうです。(コラ)
す・・すみません。話の都合上また夏侯惇の年齢上げてしまいました。
只今13歳ということにしてください(汗)もうヘタレですみません(土下座)

2004.09.04