-傍ら-






元譲の父に会いに行くと告げてから袁紹はその機会を伺った。

別に見張られているわけじゃないがやはり気持ちも体も竦むのだ。
ここまでいったら洗脳のようなもので、袁紹は父からの脅迫観念に身震いした。
今まで何一つ自分の思うままに生きたことはなかった。
欲しいものも、したい事も駄目だと言われれば返事一つで諦めてきた。
本当は欲しかった。したかった。
自分のモノになるのは父が認め与えるモノだけだった。

今まで自分はいい子だったはず。
だからお願いです、元譲だけは・・見逃してください。

心の中でそう繰り返しながら袁紹は元譲の家へと向かった。




元譲の家につくと門扉から中を覗いた。
情けないことに緊張で体が冷たかった。そんな自分を叱咤すると袁紹は家人に声をかける。

「こんにちは、私袁紹と申しますが。元譲はいますか?」

礼儀上名前を名乗ったがすぐに後悔した。
あからさまに家人は引きつった顔をしたからだ。
父の横柄さが家人にまで影響しているらしい。

「お取次ぎお願いします」

仕方ないので何もない振りをし元譲を呼んでもらう。
少々お待ちください。といいながら家人は小走りで中に入っていった。



ここまで来たらもう引き返せない。袁紹はだんだんと腹が据わってくるのを感じた。
それより久しぶりに元譲に会えると思うと嬉しくて仕方なかった。
元譲は前みたいに微笑んでくれるだろうか?少し不安もあった。
突然来るなと言われれば怒ってもおかしくない。
もし怒ってたら事情を話して許してもらおう。
許しを請うてでも元譲を取り戻したかった。

「本初っ!!」

声に振り返ると元譲は満面の笑みでこっちに向かって走ってくる。
自分の考えすぎだとわかり安堵した。
嬉しそうに自分に向かって走ってくる元譲が愛おしい。

「元譲、久しぶり。元気だったか?」

自然と顔が綻んだ。

「本初〜よかったっまた会えた」

袁紹の言葉には返事もせずに元譲は嬉々として走り寄ると袁紹に飛びついた。
嫌われてなかった。その事が嬉しくて嬉しくて袁紹は元譲を抱きしめた。

「ごめんね。俺の父上が酷いこと言っただろう?」

ドキドキして声が擦れる。

「平気っ、だって本初は忙しいのに俺がいっぱい遊びに行き過ぎたんだもん」

そう言って何事もなかったようにニッカリと笑う。

「ごめんね」

そう言うと元譲はキョトンとした。

「じゃぁ許してやるから今日はまた俺に稽古つけてよ?」
「いいよ。今日は元譲が鍛錬サボってなかったかじっくり見るぞ?」

笑いながら元譲の家の庭に入る。

「こんにちは袁紹殿」

ふいに声をかけられた。元譲の父だった。

「こ・・こんにちは」

父が迷惑をかけといて家にまで来たことが少し後ろめたかったが元譲の父は別に気にしていないようだった。
ニッコリと微笑んでごゆっくりとだけ告げると家の中に入っていった。
袁紹はその背中に黙って一礼をした。





「見てて!こうでしょ?」

そう言いながら元譲は模造刀で型の演舞をした。
なかなか様になっている。

「どう?ねぇうまい?」

褒めて褒めてと今にも聞こえてきそうな顔で元譲が言う。
久しぶりに気持ちが安らかになっていくのがわかる。

「すごい。よく覚えたな」

薄っすらと生え始めの髭を撫でながら言うと元譲は嬉しそうにニコニコしている。

「従兄がね教えてくれたのっ」

その言葉に袁紹は眉を顰める。元譲は気付かないようで更に続けた。

「本初に会えなくなったから代わりに従兄が色々教えてくれたんだよ」

無邪気に言う姿が憎らしいほど可愛い。

「従兄は優しいかい?」

聞きたくなかったが元譲が曹操の話をしたそうだったので聞いてみた。
本当は聞きたくもない。そう言えれば楽だった。
でも元譲の笑顔を壊したくないのだ。

「優しいよっ何でも教えてくれるし」

頬を赤らめ自慢げに話す元譲を見てられない。
曹操の話なんてしないでくれ。曹操になんて何も教わることない、全て俺が教えてやる。
言えるものならそう言いたかった。

「従兄が好きかい?」

頭の中で別の自分が聞くな聞くなと叫んでいる。でも袁紹は聞かずにいられなかった。
俺とどっちが好き?俺とどっちといたい?
それだけは押し留めた。

「うんっ大好きっ」

赤くなって言う元譲を見た時、袁紹の中で曹操は存在さえ消してしまいたいほど憎い存在になった。






続く



はい、第四話です
やっと惇い会いにいった袁紹です。にぶちん惇ってば罪作りなことばっかのた打ち回ってます。
おかわいそうに(笑)
なんか完結まで長くなりそうです・・・うひゃ〜

2004.09.05