『ぅ…っ…ぁあっ…嫌だっ…』


闇の中で微かに響く甘い喘ぎと拒絶の声

寝台に散らばる艶やかな黒髪

歴戦の将が戦場で見せる猛々しさは今は微塵も感じられない

諦めずに抵抗する腕を一つに纏め縫いつけると、快楽に蝕まれた体は簡単に我がモノとなった。
思う様腰を叩きつけ最奥を抉れば、面白いように応え跳ねる体


『元譲様っ……』


快楽に沈みそうになる思考を字でもって呼び戻す。
貴方を組み敷いているのが誰なのか、快楽がうやむやにさせぬ様。

ハッとしたように目を見開く、濡れた瞳に自分が映っているのを確認してまた突き上げた。











『夢現』











「……………まただ…」


夏侯将軍が人質にされたあの事件から、頻繁に見るようになってしまった夢…

いや、正確には彼の方あのかたの乱れた姿を目にしてからと言うのが正しい。

生涯告げるつもりはないが、胸には彼の方への恋情が溢れかえっている。

彼の方の側でお役に立てればそれだけでいい、多くは望まぬ…
などと気取ってみたところで抱きたいという欲求が無かったわけではないのだ。


寧ろ思いを隠すが故の精神の重圧なのだろう、気がつくと将軍の体を邪な思いで見ては自分への嫌悪感に苛まれていた。


そしてその重圧はとうとう精神のバランスをも狂わせていったらしい…

度々見る彼の方を無理矢理に組み敷く夢…朝がくる度に己の寝台を真っ青になりながら確認する。



あぁ……よかった…私は彼の方を手にかけていない…



情事の跡の無い寝台にホッとし、首筋を伝う寝汗を拭う。
今日も彼の方の無事を心底安堵すると共に、自分の汚らしい欲望がいつ溢れ出すかと不安になるのだ。

嫌な気分を引きずったまま身支度を整え出仕する為邸を出る、未だ後ろめたさの残る朝に会いたくはなかった人物と鉢合わせしてしまった。

時間をずらせばよかったと思っても、彼を無視するわけにはいかず、深く頭を下げた。


「早上好、将軍」

「おう元嗣、早上好」


会ってしまったのに同じ場所へ向かう道のりを別々に行くのも不自然で、仕方なしに馬を並べ、丞相府へと向かう。

夢の中とはいえ汚した事実への罪悪感で、くったくなく向けられる笑みが痛い。
何気ない世間話を話半分に相槌を打っていると、思い出したように話が変わった。


「そう言えば、今日は武器庫の整理をする予定なのだ…その間兵卒の練兵指導を任せたいのだが」


おおよそ将軍と呼ばれる立場にある人間が、やらなくてもいいような仕事を進んでする人柄に思わず苦笑を浮かべる。


「その様な仕事は兵に任せればよろしいでしょうに…」

「戦に赴いた兵達を、一人でも多く無事生還させてやりたい…だから訓練を少しでも多くやらせたいのだ…
それに今日、俺は手が空いているしな」


そう言って浮かべる悲しげな笑みが儚く、胸を締め付けた。



私は知っている。

貴方が死んだ部下達の残した家族に、自分に与えられた俸禄ほうろくを分け与えてしまっていることも

家族の悲しみを自分の事の様に受け止めていることも

そんな貴方だから諦められない。惹きつけられて目も離せない。


「わかりました。兵の練兵は私が指揮します…整理中、怪我などされませぬよう」

「ぬかせっ」


余計な心配だと笑いながら肩を小突かれた。





まだ大丈夫…私はまだ巧くやっていける…





朝日を背に受け笑う将軍を見つめ、自分に言い聞かせた。















兵の練兵をする時刻になり、練兵場に足を運ぶ。朝言っていた通り将軍の姿は無い。
夏侯惇軍の兵等が隊列を組んで並ぶのを一瞥し、指揮をする為に用意された台へと上る。

副将である自分を認めると途端場が緊張に包まれた。

流石は夏侯将軍の率いる軍。

号令されたわけでもなく、一人一人が精悍な表情になっていた。


「これより練兵を始めるっ!本日は六隊が鶴翼かくよくの陣を敷き、中央の隊を支点に両翼の隊が隊列を乱さず敵を包囲する動きを繰り返す!
残り四隊は雁行がんこうの陣により 壁を作れ!では、各々配置につけっ!」

「ハッ!」


一斉に駈ける。

兵が配置についた、一呼吸おいて合図の太鼓を鳴らさせた。
太鼓の音が乾いた空気を揺らす、それに弾かれたように土煙を上げ地鳴りを轟かせ兵が敵に見立てた土嚢を囲い陣を狭めていく。

少々の隊列の崩れはあるものの、戦では充分に通用する範囲だった。


「太鼓っ」

「ハッ!」


ドドーーンッ


二打目の太鼓を合図に囲いを解き、元の位置へと迅速に戻り出す。
それを数度繰り返すと隊列の乱れはほぼわからない程に修正されてきた。

兵の疲れが目に見えてきたのに気づき、一時の休息を取らせるべく、側で合図を送っていた兵に命じた。



休息の間将軍の様子を見てこようと、武器が保管されている倉庫へと足を向ける。

人通りの少ない敷地の隅に位置した倉庫は兵の使う剣や戟などが保管してあり
普段は鍵がかかっている為戦時中以外は練兵の時しか出入り出来ないようになっている。

倉庫に近づくと扉が開いているのが見える、将軍が換気も兼ねて開け放しているのだろう。

中で埃にまみれ武器の整理をしている姿を想像し、思わず笑みがこぼれた。


「将ぐ…」


中へと声をかようとして違和感に眉を潜める。
耳に入った低い声、声と言うよりは呻きと言ったのが正しいそれに怪我でもしたのかと慌て声のした方へ向かう。


「っ…馬鹿…止めろ…」


意味を持った言葉に怪我ではないと安堵するも、目に入った将軍の姿にすぐさま頭に血が上る様な感覚でもってかき消された。


「孟徳っ…んっ…止めろっ‥誰か来たら…どうするっ…」

「お主が声を荒げねばこのような所誰もくるまい」


続き聞こえた主君の声に息を飲む。

二人がこういう仲だという事は知っている。しかし、実際に関係をまざまざと見せつけられるとは夢にも思わなかった。
握る拳に力がこもり、ギリッと骨が悲鳴をあげる。

倉庫から逃げ出そうと向きを変えるべく足を踏み出したと同時に耳に入り込む喘ぎ…



金縛りの如く足が床板に縫い付けられ動かない。



主君である曹 孟徳の手によって徐々に荒い息をあげ乱れていく姿…

見開いた目がそらせない。

後孔に飲み込まされていく男根、背を反らし棚にすがりつく口元から唾液が流れ妖しく光っていた。

知らず唾を飲む。

唇が乾き舌を這わせた。



律動に合わせ切なげに漏れる嬌声が静まりかえった倉庫に響く。



己の雄の部分が立ち上がっているのを泣き出したくなる様な気持ちで押さえた。
あの熱い雄穴に自身を突き立てたらどんなにも幸せだろう…指でのみ味わった感触に思いを馳せた。

激しくなる律動と共に肉を打ち付けるパンッパンッという音がますます興奮を強くしていく。


「ぁあっ…孟徳…も…もっ」

「もっとか?…元譲っ…」

「くっ…違っ…んぁああっ!」


後ろから最奥を激しく突き上げられ、具足を並べた棚に白濁が飛び散り、震えた体は崩れ落ちる様に床に膝をついた。









暫くして二人が倉庫を出ていくのが見える。
ふらつく体を小柄な主君に支えられどこかに消えていく。



完全に気配が消えたのを確認すると、ズルズルと床に尻をついた…


「何故っ…」




何故見せた…



何故見てしまった…



何故…何故彼の方なのだ…





休息の時間が終わっても暫くその場から動けなかった。

くくっと喉から笑いが起こる、瞳から溢れる涙が顎を伝い落ち、埃の積もった床に染みを作っていった。






続く



あいたっ!(笑)
やっちゃったよ、操惇で倉庫ぷれいですかっ!
最初は操惇は入る予定じゃなく、この回で終わるはずだったのですが。
兄者からおいしいネタをいただきまして!こんな風に書き直してみました!
そういや久しぶりにソソ様登場したなぁ…(オイ)
陣形なんて詳しく知りません(キパッ)唯一知ってた陣形の名前を…(笑)
確か戦国時代の名称だと…
調べたところによると三国時代は地陣、鳥陣、風陣、虎陣、竜陣、天陣、蛇陣、雲陣の八つの陣が有名という事ですが。
形と動きがさっぱりわかりません!
予定では次回で終わります^^

2005.12.21