時々。そう、ほんとうに時々なのだが、無性に夏侯惇を虐めてやりたくなる時がある。

それはとても残酷な感情で、自分の側にいさせてはいけないとさえ感じる程だ。

しかし、唯一無二の存在であると痛いほどに感じる事の出来るその存在を、片時でも離したくないという我儘がそうさせない。

その恐ろしい衝動は自分でも抑えられず。何も疑わずただ君主であり従兄であり愛人である自分に忠誠を誓い、己を省みる事もせず尽くす惇を 壊してしまうのではないかという恐怖さえも覚えるほどだった。





『今宵はわしと酒でも飲み交わし、共に名月を愛でようではないか』



そう言って惇を誘った。

何も知らずに、誘われた惇はひどく嬉しそうに笑った。



壊してしまう…



そう恐怖しながらも唇は酷薄な笑みを浮かべる。体中が叫びだしたい程の楽しみを想像し、ククッと喉の奥を鳴らす。

いつからだろうか。全てを手に入れ、天下に号令を発す事を願い、その為に後ろは振り返らず残虐とも非難される事でさえ 躊躇わなかった。

全ては己が覇道の為。



才有ればそれがどんなに問題のある人物だろうと登用した。罪人もいた。そうして増えていった臣は今如何ほどの数になったろうか。

そして、それを統括する役目を惇に任せた。



それが始まり。



時々、無性に夏侯惇を虐めてやりたくなる時がある。
















【愛慾】
















「孟徳、入るぞ」



惇の声が戸の外から聞こえた。

今夜は寝所の周りは人払いをしてある、いつもより離れた場所に典韋を控えさせてあるだけだった。

戸を開け中に入った途端無用心だと惇が眉を顰めた。

人払いの理由など知らず暢気なものだ…これから自分がどの様な目に遭うのかなど夢にも思わないのだろう。

ただ笑って流すと、ため息をつき惇が目の前に腰を下ろした。既に用意されてあった杯に自ら酒を注いでやる。

窓から差し込む満月の明かりが杯の中の酒に映り込む、それを一息に飲み干せば月さえも我が物の様な錯覚に 陶酔していく。



「綺麗だな…」



珍しく言葉少なく酒を流し込むわしに呟くように告げた。



「あぁ、今宵は満月故…血が騒ぐかの様な興奮を覚えはせぬか?」

「おい、物騒な事を言うな…血が騒ぐなどと、戦いに快楽を求める狂人の様だ」

「快楽など戦いには求めぬ…戦はあくまで天下統一の為の手段……快楽はお主の体に求めるとしよう」



そう言って立ち上がるとギョッとした様に目を見開いた。幾度となく抱いたのに、未だ己が男に貫かれ乱れる事を認めようとはしない。

尻をずって後ろに下がるのを阻止し髪を鷲掴んだ。苦痛に漏れる声も無視し、そのまま強引に寝台へと向かう。

いつもと違うわしの態度に戸惑っているのだろう、たいした抵抗もできずに小柄な体にされるがままだ。

我に返り本格的に抵抗される前に、用意してあった縄で惇の腕をそれぞれ寝台の左右に縛り付ける。



「も…孟徳‥?」

「しっ…」



ぎょっとした惇は首を反らし自分の腕を交互に見ていた。やっと尋常でないこの事態に気づいたのだろう、一気に顔を真っ赤にすると咎める言葉を喚いている。

聞こえないふりをし、暴れる脚を掴み力ずくでそれも左右に縛り付けた。



大柄な惇を縛るのは結構な重労働だ。



縄を解こうと我武者羅に暴れる惇の胴を跨ぎ、薄ら笑いを浮かべて見下ろす。

冗談はよせだの怒鳴っているが、腰帯を解き衣服の前を開き始めた頃には冗談ではないと解ったようで、下唇を噛み締めながら顔を横に反らしどこかを睨み付けていた。



「惇、抵抗はもういいのか?」

「…したいのだろう…?縛らなくても逃げはせん」



解けと遠まわしに要求してくるが、解いてしまったら逃げられる。絶対に。



「わからぬか?逃げ出したくなる程の事をするから縛ったまで」



耳にした言葉を、冗談だろう?と縋る視線で問い返してくる。それに答える代わりに懐から張り型を取り出して笑ってやった。

青ざめ逃げようと跳ねる腰を、上から体重をかけ押さえつける。まるで暴れ馬を調教しているようだなどと、暴れる体と格闘しながら思い可笑しくなる。

片腕で腰を押さえつけ、舐め濡らした張り型を解しもしていない惇の後孔に捻じ込む。 わなわなと震える太ももと掠れる程の悲鳴が痛みを訴える。

全てを収めるとガクガクと痙攣している体を辿り惇を見た。あまりの痛みに意識が飛びかけているのだろう、その頬を軽く平手で叩き意識を呼び戻す。

呼吸を忘れていた肺が大きく上下するのを認め、それに満足する。

萎えたままの惇の雄をいきなり口に含む、ビクリと背が揺れた。舌を絡めながら頭を上下させると徐々に頭上から荒くなった息遣いが聞こえ始め、硬度を持った ものから強い雄の匂いがたち込める。

刺したまま放置してあった張り型を軽く揺すってやる、切なげな喘ぎと共に中心が反りを強めた。

惇の中心から口を離すと、唇とそれを繋ぐ透明の糸が月光を浴び光って銀糸のように見える。それを舌で舐め取り味わう。

張り型と共に懐にしまってあった細い縄を持ち、惇の雄の根元をきつめに縛った。勿論射精できないようにだ。

そして、張り型を抜き去ると枕元から小瓶を取り出し、中の液体に張り型を浸す。

それを見た惇が明らかに怯えの表情を浮かべるのが横目に見えた。身を持って知っているその効き目。

狂う程の快楽をもたらす強めの媚薬を、張り型が滑り光る程に纏わらせる。

つぷっ…っと音を立て張り型は呆気なく肉の輪を広げながら飲み込まれていった。

両手両足を縛り付けられ、後孔には張り型を咥え込まされるその姿に知らず唾を飲む、壊してしまうなどという恐怖はもうなかった。

欲望に飲み込まれて自我も何もかもが薄れ、ただ鳴かせ泣かせる事にのみ執着していく。



「ぅ……くっ…」



薬が効いてきたのだろう、もじもじと腰を揺らし早くなる呼吸が熱を孕んでいる。

腰を押さえつけた。これで動けるところは首と指くらいになった。

立ち上がり涎を垂らす中心を舐め上げた。背が浮き上がる程に反る体を無理矢理に押さえ込みただ愛撫を続ける。



「ひっ…ぁあっ、やめろっ‥孟徳!ああっ」



快感が強すぎるのだろう、快楽と言うには遥かにそれを凌駕する感覚に、喘ぎを通り越し悲鳴と表現するのが正しい程の嬌声が部屋を満たした。

舐って吸ってまた舐って、それを繰り返す。時折鈴口に舌を割り込ませると、粘ついた透明の液が更に溢れ、それをまた強く吸う。 苦痛に喘ぐ体は首を激しく振り、髪を振り乱し狂ったように泣き叫んでいた。

放っておかれた後孔が疼くのだろう、押さえつけられながらも必死に腰を揺らす。中心を根元まで含みつつ張り型を引き抜く、途端挿れてくれと涙ながらに 請われ最奥まで一気に貫いた。

ビクビクと痙攣する体を撫でてやり、張り型と舌を同時に使い責めたてる。 感極まってしまったらしく、まるで幼子の様に声を上げながら泣き出した。



「孟徳兄っ、孟徳兄っ、もっ‥やっ」



幼き日を思い起こさせる呼び方に釣られ顔を覗き込むと、朦朧とした眼差しは宙を彷徨い、顔中涙と唾液でベトベトだった。

狂おしい程に愛おしいその顔に舌を這わせ、綺麗に舐めとっていく。



「元譲…元譲、俺に着いて来るか?俺だけを見続けるか?」



遠い昔に遊び半分に誓わせた言葉を、その日をなぞる様に紡ぐ。



「着いてくっ、孟徳兄以外‥見ないっ…」



変わらず応えるその言葉に、漸く憑き物が落ちていくような感覚が身を包み込む…



「元譲…俺を愛していると、死ぬまで俺しか愛さないと誓え…」



返ってくる誓いの言葉ごと唇を貪り、惇の中心を戒めている縄を解いた。



長らく塞き止められていた欲望は勢い良く噴出し、腹を通り越して覆いかぶさるわしの腕までをも濡らしていた。



「元譲…わし以外、その瞳に映すこと許さぬ…例えわしが死してもだ」



我儘な独占欲で縛り付ける言葉も、もう惇には聞こえていなかった。

開放と共に意識を飛ばし、ぐったりと放り出された体を抱きしめ、いつか壊してしまうのではないかと恐怖する。



それでも、この存在を離す事などできはしない。



狂っていると思いつつ、愛するのをやめる事など考えられない。







せめて、壊さぬよう。執着を紛らわすよう。わしは戦に赴き幾千もの屍の山を築いてゆく…








痛いなぁ(笑)
こんなんだい好きです(爆笑)
えっと、軍を統括する者として皆の面倒を見ている惇兄が、あまりに皆に慕われてるので嫉妬しちゃったソソ様って感じです
わかりづれぇ…

2005.12.29