-種-




「張遼」

あの人は親しげに私の名を呼ぶ。
降将で周りとなかなか馴染めない私を気遣ってのことなのだろう。
事ある毎に近寄って来てはたわいも無い話をしてくる。
そんな気遣いが余計に私の心を苛立たせているなどと夢にも思っていないのだろう。
皆に向ける笑顔と寸分変わらぬ笑顔で笑いかけられると虫唾が走る。

そんな笑顔など見たくはない。

どうすればその笑顔を消すことが出来るのだろうか。
私はいつも話しかけられながらそんな事を考えている。

一つだけ残った瞳が楽しそうに細められる度、心には真っ黒な何かが溜まっていくようで堪らなかった。

「張遼?どうした?」

考え事をしていた私に心配そうに問いかけてくる、そんないかにも心配してますみたいな顔を向けられると
どうしようもない程イライラが募り貴方を滅茶苦茶に壊してしまいたくなりますよ・・・

「なにか悩み事でもあるのか?」
「いえ、なにもありませぬ。ただ・・・」
「ただ?」

(貴方の笑顔が嫌いなんです)

そう言ってしまおうか?そうしたならばこの人はどんな顔をするだろうか・・・

怒る?落胆する?泣く?

途端に楽しい気持ちになってくる。

あぁ、そうだ。私はこの人を泣かせたいのだ。
綺麗な瞳を涙で滲ませる姿を見たいのだ。

そこまで私はこの人が嫌いだったのか、初めて気付いた欲求は出口を求めて私を苛つかせる。
どうせ呂布殿が死んだ時に一緒に死ぬはずだった命だ。不敬罪だろうがなんだろうがかまわない。
私は苛立ちを解き放つ事にした。

「悩みがあるならば俺が聞いてやる、今夜にでもどうだ?」

そう、貴方は丞相から軍全体を任されている。
だから私のような周りとうまくいっていない降将をほっとけないのでしょう?
貴方は優しすぎる。誰にでも分け隔てなく。知っておりますか?優しさは時には罪になり得る事を

貴方は貴方の罪で罰を受けるのですよ・・・

「はい、では今夜私の館に来ていただけますかな?」
「わかった、では夜に」

そう言って別の武将の元へ向かっていく。
その切り替えの早さも癪に障る。
でも今夜漸くその笑顔を消し去ることができる。
そう思うと私は笑いが込み上げてきそうで仕方なかった。














「よくぞいらしてくれました、夏侯将軍」
「そんな固っ苦しい呼び方などしなくていい。夏侯惇とでも呼べ」
「では、どうぞ入ってくださいませ。夏侯惇殿」

私の狩場へ

貴方は今夜の獲物なのですよ?そんな事思ってもいないでしょうが・・・
どうすれば痛めつけられるかなんて簡単な事。プライドも何もかもズタズタにしてしまえばいい
貴方を傷つける事ができればいいのですからな
楽しい夜になると思いますよ・・・

「それで?何を悩んでおるのだ?」
「まぁ、慌てないでくだされ。少々酒を用意しましたので・・・」

部屋に入るなりそう切り出す将軍を制して酒を勧めた。酒と杯を乗せた盆を指差す。
貴方の為に用意した特別な酒ですぞ?と言えば優しいこの人は断る事などしないのですからな。

「すまない、それなら少しいただこうか」

言って杯を取る手を眺める、武人らしいゴツゴツとした手なのに綺麗に見える。
まるでこの人の手だけ血で汚れてなどいないように
私の手は人の血で真っ赤だ・・・
一人だけ綺麗なモノのような顔をしているから余計に目につく。
おいしそうに酒を飲み干す将軍を見ながら私は薄く笑った。
すると、一向に酒を飲まない私に首を傾げる。

「張遼、飲まな・いの・・か・・・!?」

口が回らなくなった事に眉を顰め私の顔を見た、やっと効いてきたようですな?
そう言うと将軍は杯を落とす。

「な・・なに・・・をっ」

痺れてきた体に慌てて酒を吐き出すがもう遅い。
一度吸収されてしまったものを吐き出したところで意味はないのだから。
座っている事も辛くなってきた様で虚ろな目で倒れこむ。それを床にぶつかる前に支えてやると
なけなしの力で睨みつけて来る。

いつもの笑顔なんかより余程いいですよ?

そう言って微笑むと将軍は力の無い手で私の頬を殴りつけてきた。
ペチンと微かな音を立て当たった拳はきつく握れることも出来ていない。
将軍の唇にゆっくりと唇を重ねるとビクンと体が揺れた。
恐怖に青褪める顔が楽しくて私はクスクスと笑いながら将軍の服を脱がし始める。

「や・・・め・・・」

くったりと力の抜けた体は柔らかい人形の様で脱がすのが大変だったが
普段の戦装束ではなく軽装だったのが助かった。
流石に鎧から脱がしていくのは大変なのだ。
全てを脱がし終わると将軍の体を床の上に横たわらせた。
羞恥に顔を背けているが隠す事ができない全てが目の前に佇む。
ところどころに傷があった。やはり武人なのである。
最後に顔半分を覆っている布を外すと悔しそうな表情と共に矢で潰れた左目が現れた。
閉じられた瞼に鏃の刺さった痕。
溜息がこぼれる。

この傷は我らと戦った時のもの・・・

左目に舌を這わせると少し痛むのか低く呻いた。
楽しくて仕方ない。
足を持って左右に大きく割り開く。早くなった呼吸が恐怖に緊張していることを伝えてきた。
まだ触ってもいない雄は変化も見せずそこにある。
将軍の後孔に自分の雄を押し当てた、ヒィと小さな悲鳴を上げ将軍は足を閉じようと無駄な抵抗を 試みている。
結局痺れた体は足を閉じるどころかフルフルと振るえ嗜虐心を刺激するだけだった。
ククッと喉の奥で笑うと強引に腰を進める、メリッと裂けるように瞬間的に出血したのが
滑りのよくなった事で わかる。
歯の根の合わないように震える姿を見てますます腰を進める。強引に抜き挿しを繰り返すと
その度に悲鳴を漏らすのが 楽しかった。

「将軍、私はね・・貴方が大っ嫌いなのですよ」

貴方の優しさが。

貴方のお節介が。

貴方の笑顔が。

そう叫びながら激しく突き上げると啜り泣くような声が聞こえた。
見ると虚ろな右目から涙を流していた。

待ち望んでいたはずの涙なのに・・・

嗚咽にしゃくり上げる様を見一気に頭が冷めたくなっていくのを感じる。

「将軍・・・」

動く事をやめ呟くと将軍は私の顔を見た。

「ちょ・・りょ・・・・俺は・・お前を・・傷つけて・・・・いたの・・か・?」

辛そうな顔をして聞いてくる言葉に全身が震え始める。

堪らなくなって将軍の体を強く抱きしめた。

「そうですっ!!貴方は私を傷つけた!」

皆と同じものなどいらない。

私だけに向けてくれる笑顔が欲しかった・・・・

初めて笑顔で「張遼」と私の名前を呼んでくれたあの日から・・・

あの日から私の中には種が芽吹いていた。

夏侯惇という名の大きくて優しくて綺麗な花の種が。





抱きしめながら泣き続ける私を、将軍はいつまでも優しく抱きしめ返してくれていた。








どっひゃ〜!!!まずは土下座からあとがき入らせていただきます!
申し訳ない!!!!!(見事な土下座)
酷い奴な張遼さん・なんか女々しい張遼さん・そして強姦犯張遼さん!
優しい惇兄に癒されていた事も惹かれていた事も気付かずに憎しみだと思っていたまぬけな張遼さん!
(もうやめいっ!)
すみませぬ・・・これでも添花はいちお遼惇スッキーであります!(ゲフン/敗走)

2004.10.27