-憎愛-




降伏すると呂軍の将が言ってきた。

己の武しか顧みない呂布の配下にあっては少しでも戦況が思わしくなくば
我先にと自分可愛さに降伏を申し出てくるものもあるだろうと踏んでいただけに
その降伏を簡単に信じてしまった俺の落ち度としか言えまい。
罠などと微塵も疑わずたいした武装解除もさせず己の天幕に招き入れた事が
今更ながら自 分の行動故に悔しくもあり情けなくもある。

少しでも孟徳の戦力が増えるならと、そればかり思っていた。

歓迎という程じゃないにしろ、受け入れを命じたのは俺だった。
韓浩に不用心だと諫められる言葉も程々に懸命に笑みをたたえ手を差し出した瞬間
手首を強い力で掴まれ油断していたところを一気に引き寄せられ首に隠し持っていた小刀をあてられる。

幕内がどよめいた。

まんまと人質というみっともない立場に陥った俺は騒ぐなとだけ叫び
一軍を率いる将軍を人質に取られ、なにも手が出せない状態の配下の兵たちの合間を縫って
そのまま偽降伏者 に連れて行かれた。







「まさかこんな手にひっかかってくれるとはね・・陳宮殿の言うとおりとんだ猪武将だったな」

ゲラゲラと揶揄するように笑う兵たちの声に夏侯惇は奥歯を噛み締めた。
まさに自分のまぬけさを呪うしかないといった状況に咬まされた猿轡の上から歯噛みするも、
柱を抱く形に両手を後ろ手に縛られた今、どんなに腸の煮えくり返る思いをしようがうまい打開策は考え付かなかった。
唯一自由な足でさえ周りに武器などに使えるようなものが落ちているわけもなく、
ただ怒りに震えるといったことしかできていない。

幕舎からそのまま人質として連れてこられた為愛刀の滅尽麒麟牙もない。
それどころか懐に隠してあった小刀さえ没収されてしまい、本当の丸腰状態なのだ。
自分もそこまで徹底しなかった気の緩みはやはり相手を舐めてかかったとしか結論づけられない
いつの間にか自分は 慢心していたのかと懺悔をしてみるが、そんな事を今更したところで時間は戻ってなどくれるわけもなく。

せめて孟徳の迷惑にだけはなりたくないと、いつ自決してもいいように心の準備をする。
本当に情け無いことだが今は自分の力じゃどうしようもなく、外にいる韓浩らに頼るしかないのだ。

いつまでたっても殺されず拘束されている状況から判断するに、どうやら俺は何かの取り引きの材料に使われるのだろう。
馬鹿らしい、たかが一武将の命くらいが何と交換できるというのだ・・・
曹軍はそれ程甘いところではない。

「あぁ、腹減ったなぁ・・・おっかねぇからつい呂布将軍の下についちまったが、兵糧不足はたまんねぇよな」

どうやら予想していた通り呂布軍は兵糧が足りないらしい。
戦において兵糧をどれだけ確保できるかが 勝敗の鍵を握るといっていいくらいだろう、
腹が減っては戦はできぬとはよく言ったもので。
たかが兵糧と感じるだろうが、実際は軍の士気にもかかわる重要なことだった。
拠る地を持たなかった呂布が敵などから奪う事意外に兵糧を用意するのは無理だ。

どうやら俺は兵糧と引き換えの人質らしい・・・

しかし曹軍とて兵糧が潤っているとは言いがたい。むざむざと敵にくれてやるほどの余裕は無いのだ。

ならば俺はまるっきりの足手まといでしかない。

交渉の内容がはっきりしていない今、早まった事をするつもりはないが
これ以上自軍の迷惑にはならぬようにだけはしたかった。







ぎぃという重い扉の音に顔を上げると戸口に男が佇んでいた。
背のあまり大きくない男で、体格から察するに武人ではないと思った。
逆光で顔はよく見えなかったが、近づいてくるにつれ見覚えのある顔が現れた。

「夏侯将軍、お久しぶりですね」

ククっと嫌な笑みを貼り付けその男、陳宮が言った。
元々は孟徳と共にあった軍師で、何が気に入らないのだか孟徳の元を去って今は呂布の軍師をしている。

獣の軍師など聞いて呆れるわ・・・

「いい格好ですねぇ、曹操の腹心とも言われる貴方が」

陳宮は細い目を更に細め俺をジロジロと見ている、
気持ち悪さに背筋に冷たい汗が伝うがありったけの怒りを 込め睨みつける。

「そんなに怖い顔しないでください。貴方を殺すつもりはないですから・・・まぁ大人しくしていたらの話ですけどね」

そう言うと俺に近づき目の前で膝をついた。
いくら丸腰で縛られているとはいえ少し無用心だろうと思ったが あまりに不気味な陳宮の笑みに鳥肌がたち青褪める。

「少し話をしましょうか・・・」

猿轡を乱暴に解かれ、息苦しさから開放された。大きく呼吸を繰り返すと、湿っぽくかび臭い部屋の匂いが鼻につく。

「・・・・俺など捕虜にしてどうするつもりだ」
「さぁ、どうしましょうかね・・・ただこのまま帰すのも面白くないですし・・・」

くすっと邪気の無いような笑みを向けられ余計に不気味さを感じる。
この男はこんな異様な空気を持った男だったろうか、孟徳と袂をわかつ時に何があったのか知らないが
ただ学問に熱心な男との印象しかなかったはずだ。

「曹操が寵愛する臣下、その味を見てみるのもまた一興」

耳を疑うような言葉に目を剥くが怯える様子も見せず陳宮の顔が近づく、
髪を鷲掴みにされ頭を柱に固定される形で くちづけられた。
ぬるりと気色の悪い滑り気を持った唇に吐き気がするが、
拘束されたうえ髪を掴まれていては抵抗もままならず、 そのまま好きなように貪られる。

「・・ぐぅ・・・っ・・」

あまりの気持ち悪さに悲鳴のような声が漏れた。

「もう少し色気のある声を出してもらえませんかねぇ」

大袈裟に溜息を吐き肩を竦めてみせる、口を拭いたい欲求に頭を振るがどうしようもない。
ズボンをいきなり引裂かれビクッと体が竦んだ
かぁっと羞恥に顔が熱くなるが見られることが耐えられずぎゅっと目を閉じ 横を向いた。
陳宮は俺の下帯を引き抜き、いきなり自身に手をかけ始める。

「くっ・・・やめろっ触るなっ」

足をバタつかせ必死に身を捩るがキツク括られた腕のせいで微かな抵抗しかできない。
上下に擦られ無理矢理に快楽を引き出される。
反応を見せ始めた体に陳宮は楽しそうに笑った。

「・・ゃ・・やめろっ・・っ・・」

自分の息が上がってくるのがわかり悔しさに視界が霞む。

「ほぅ?男の私にいいようにされて反応を示すとは・・・余程普段から可愛がられているとみえますな」

クククと嫌な笑い声が耳に入るがそれどころではない、直に刺激を与えられ耐えるという行為に集中しているのだから。

「・・ふっ・・ん・・・ぁっ」

いくら気持ちもなにもない相手とはいえ、直に弄られれば快感を示す。
それが男というものだ、と頭の中ではわかっていても この状況でいいようにされるのはとても自尊心が揺さぶられた。
悔しいなどというもんではない。自分の体を呪わしく思った。

「意外に可愛い声を出しますね・・・曹操の気持ちわからなくもない」

そうからかうように言われ歪む視界で睨みつけた。

「私はその気はないんですけど、まぁ・・あの男の隙をついて貴方を
味見するっていうのはとても魅力的ですから・・・ 存分に味あわせてもらいますか」

そう言うといきなり後ろに陳宮自身を捻じ込まれあまりの痛みに目の前がチカチカとした。
耐えるように唇を噛み締めた為口の中に鉄の味が広がる。

「ぐっ・・・痛っ・・やめ・・・」
「あはははっ・・・素敵ですよ。夏侯将軍・・・随分と慣らされているようですな」

興奮からか荒い息を吐きながら陳宮は一心不乱に腰を動かす。
局部が出血し、粘着質な水音をたてる。

「・・ぁあっ・・痛いっ・・いやだっ・・」

悔しさと痛みに知らず涙が流れる、それを舌先で拭うようにされた。






どれくらいの時間揺さぶられていただろうか。

気が付けば俺はこんな狂ったような行為なのに射精していた・・・

「陳宮・・お前はそんなに孟徳が憎いのか・・?」

肩で息をしながら俺が投げかけた質問に陳宮は満面の笑みで答える。

「憎いなんて言葉じゃ語りつくせませんな」
「曹操は才などと言うものを愛し集めておきながらその実心から必要とはしていない
万能の才能を持つ奴は 結局は自分だけで事足りてしまうのですよ。部下など単なる駒にすぎない」

そう言って笑った。

「お前は孟徳に必要とされてないと思ったのか・・・?」

そう口にした瞬間頬に鋭い痛みが走った。
どうやら陳宮に殴られたらしい。疲れ果てて朦朧としていた頭が漸くそれだけ理解する。

「貴方だって、単なる駒なんですよっ!?」
「違うっ!あいつは確かになんでもそつなくこなす才能を持っている。
しかし・・・それでも完璧じゃない・・だからあいつは 才を求め、人を愛すのだ」

手放しそうな意識の中それだけ言うと俺は真っ暗な世界へ落ちていった。

「ならば、その言葉正しいかどうかじっくり検分させていただきますよ」

薄れゆく意識の中で陳宮の悲しそうな声が響いた・・・






「将軍っ!!元譲様っ!!」

聞き覚えのある声にゆっくり目を開けると、見知った顔が目の前にあった。

「か・・韓浩・・・」

掠れる声で名を呼ぶと、目の前の将。韓浩が安堵したように息を吐いた。

「ご無事でしたか・・・よかった、殺されでもしていたらと心配しておりました」

そういいながら俺の両手の縄を解き、目線を逸らしながら衣服をかけられた。
その態度に自分が下半身を出したまま放置されていたことに気付く、精に汚れたそれは
何があったか一目瞭然で、眉を寄せ 歯を食いしばる。

「すまぬ・・迷惑をかけた」

そう言って頭を下げると無言で肩を貸された。

「韓浩・・・」
「はい、何でしょう将軍」
「敵はどうなった」

腰が鈍く痛み体を引きずるように歩きながら状況を把握しようと問う。

「はい、将軍を人質に食料や金品を要求してきましたが・・それらを跳ね除け突入いたしました
・・・申し訳ありません」

まるで自分が悪い事をしたように答える韓浩に構わぬと告げた。俺とて同じことをしただろう。
歩きながら通路に転がるついさっきまで敵兵だった物体を見る。
陳宮の姿はないようだ、突入の前に姿を消したのだろう。

「・・・陳宮・・」

ぼそりと呟くと韓浩が聞き返してきたがなんでもないと言った。






あの男は、本当は孟徳の側にありたかったのではないか・・・

そんな事を考える。
曹孟徳という男に魅了された故、自分が認められないと思った瞬間、それが憎悪に変わったのだろう・・・
気持ちがわからなくもないと思った。
俺も曹孟徳という覇王に魅了されている人間の一人なのだから。
ただ、あいつと俺が違うのは・・・孟徳を疑うなどという事が無いということだろう。
例え孟徳が俺を単なる駒だと思っていたとしても・・離れる事などできぬ程に魅了されている。
我儘な程に天下を焦がれるあの男が愛おしい。

見ているがいい、陳宮。俺が孟徳の天を斬り開く様子を、それを邪魔するというならば俺がお前に引導を渡すまでだ。

「韓浩、中で見たことは孟徳には黙っていろ。借りは己の手で返す」

そう言って俺は拳を握り締めた。








陳宮は呂布に命をかけて尽くしたという考えしかない人には反感かいそうなSS
まぁいいじゃん、こんなのもってお優しい方ばかりなことを祈ります(汗)
認めた人だからこそ認められない悲しさが大きすぎたみたいな感じで陳宮さんは曹操様の敵になることを選んだという内容です。
わっかりずれぇっ!
陳宮×夏侯惇なんですが、ある意味曹操×陳宮的な感じ?いや曹操←陳宮か・・?
内容も尻切れクサイ・・あいかわらずな駄文で申し訳ねぇです

2005.03.29